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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
レッシグ教授と著作権管理団体の激突?
歌田明弘
 12月2日、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)が「情報社会時代の知的財産権」と題した公開フォーラムを開いた。著書『コモンズ』などで現在の著作権のあり方に鋭い疑問をつきつけてきたスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグが基調講演をし、一日がかりのディスカッションが行なわれた。

IPマッカーシズム
 レッシグ教授は写真を例にとり、撮影に許可がいるようだったらカメラは普及しなかったはずで、Freeであることによって写真のマーケットが爆発的に広まったと、権利でしばることがいかに技術の阻害になりうるかを語った。そして、著作権によってクリエイティヴィティが邪魔されてはならず、法律を新しい技術にあわせなくてはならないと言う。
 しかしながらアメリカの現状は、「知的所有権に反対するものは反アメリカ的」というムードすらあり、「IP(Intellectual Property)マッカーシズム」とでもいうべき状況になっていると指摘する。知的所有権の拡大をねらうアメリカ政府・企業と戦っているレッシグ教授は、日本で考える以上につらい戦いを強いられているのかもしれない。
「IPマッカーシズムは国境を超えて広まっている」とレッシグ教授が言うとおり、日本も知的所有権強化の方向に向かっており、けっして楽観できる状況ではないが、レッシグ教授は好意的に耳を傾けてくれる人もいる日本が気に入ったようで、6ヶ月に一度ぐらいは日本に来たいとも言っていた。

「許可の文化」の是非
 このフォーラムは、「許可の文化を築いている」というレッシグの主張を出発点に、知的所有権強化に賛成の側、反対の側、双方が登壇する興味深いものだった。
 午後の最初のセッションは、日本政府が進めているe-Japan構想とオープンソースがテーマで、オープンソースのOSリナックスの普及を図ってきた専門家やリナックスを採用した地方公共団体の責任者と、リナックスの脅威にさらされるマイクロソフトの部長が並び、それぞれの長所・短所を指摘しあうかたちになった。
 次のセッションでは、レッシグ教授と、著作権についてしきり役を果たす文化庁の著作権課の課長、音楽著作権管理団体JASRACの幹部、それに日本で独自の著作権システムを提案してきた林紘一郎慶応大学教授らによって進められた。
 JASRACはつい先頃まで音楽著作権を独占的に管理してきた。著作権についての議論では「悪役」として非難されることも多いが、当事者の主張を直接聞けたのは収穫だった。アメリカでも著作権保護期間は70年になり、欧米は70年が主流になった。JASRACの加藤衛常務理事は、海外の著作権団体の集まりでは、「日本の著作権団体は一次著作権者を守っていない。誰の代弁者なのか」と問いつめられ、国内に帰ってくると、とくに大学の先生たちから「著作権強化を図るのはとんでもない」と猛反発されると言う。「悪役」として捉えられがちな立場を十分に知りつつ、ときにコミカルに「苦境」を語ったが、結論は「もういい加減に欧米なみにしてくれ」というものだった。

「利用者の立場を考慮しないとモラルハザードが起きる」
 著作権課の課長は、最初の話こそは杓子定規な著作権法の解説だったが、審議会の動向などについての観測をまじえ、その立場としてはかなり踏みこんだ発言だったように思われる。日本の著作権法は、著作権者の権利の擁護一辺倒ではなく、利用者の立場に立ったものでもあること、利用者の便宜も考えないと「著作権なんてくそくらえ」とモラルハザードが起こる恐れがあることなどと語った。また、映画の著作権については70年になったが、審議会では、著作権延長に好意的でない委員も多く、映画以外のジャンルについて著作権期間がすぐに延長される可能性は少ないが、権利者からの要望は強く、いずれは70年になるのではとのことだった。さらに、文化庁も、著作物の活用をうながすために「自由利用マーク」を作り普及に努めているが、「コピーOK」というマークをつけることについては著作者から懸念が語られ、著者になりすます心配や、撤回が困難といった問題があることが明かされた。

日本発のデジタル時代の著作権についてのアイデア
 レッシグ教授はパブリック・ドメインの著作物を増やす「クリエイティヴ・コモンズ」という活動をしており、日本でも注目が集まっているが、林紘一郎氏も1999年に発表した論文で、デジタル時代の著作権のあり方について提案している。ところが、反対も賛成もなかったそうで「日本の知力が劣っているのではないか」と疑問を呈した。「クリエイティヴ・コモンズ」の活動があって、その流れで林氏の提案が顧みられているところもある。日本人が提案しても注目しないが、海外で誰かが言い出すととたんに飛びつくと言う点は自戒すべきところだろう。

対立は超えられるか?
 さて、著作権強化を主張するJASRACの幹部と、著作権の拡大にたいして闘ってきたレッシグ教授が同席し、激しい論戦になるかと思いきや、意外に「紳士的」なパネルだった。「海外の著作権団体からは保護が十分でないと非難されるかもしれないが、日本の著作権のあり方を誉める人々もいるはずだ」とレッシグ教授が慰める(というより皮肉?)といったかたちで進んだ。
 レッシグ教授としても、著者やアーティストが報酬を受け取ることに反対しているわけではない。コンテンツ企業の利害で、恣意的に法律が変えられていくことを懸念している。また、誰が権利を持っているかがすぐにわかって著作物の活用が図られる方策を提案しており、こうした面では、著作権団体の利害と相反するわけではない。
 
日本語化された「クリエイティヴ・コモンズ」ライセンス
「クリエイティヴ・コモンズ」のライセンスは日本語化されてサイトで公開された。1月15日までパブリック・コメントが求められている。日本の著作権法は大陸法の流れを汲み、英米の著作権法とは違っている。著作人格権のあり方や「フェア・ユース」についてなど日本語化にさいして考慮したところがあると、翻訳にあたった弁護士、若槻絵美氏は語っていた。
 著作権は、デジタル化の進展やインターネットの普及までは一般の人々が関心を持つことは少なかったが、著作活動の根幹にかかわるものという認識が広まってきている。そうしたときに、対立する考えを持つ人々を一堂に会する機会を作ったことは意義深い。
[ うただ あきひろ ]
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