artscape
artscape English site
プライバシーステートメント
ミュージアムIT情報
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
次々と発売される読書用端末
歌田明弘
 パソコンのディスプレイが読みにくいのはまだ過渡期の装置だからで、いずれ読みやすくなるだろうとずっと思ってきた。しかし、さしあたりそうした悩みは解消されそうにない。前回書いたように、パソコンは「読むための装置」というよりも、「見るための装置」になろうとしている。そうした状況だからということからか、今年はいよいよ読むことに特化した読書用端末の発売が始まる。

軽く電池が長持ちする見開き端末
 まず市販されるのは松下電器の「シグマブック」だ。2月20日から紀伊國屋書店や丸善、松下のショッピングサイト「パナセンス」で発売される。希望小売価格は37,900円。3月までは限定1,000台とのことで、販売サイトのパナセンスでは、予約開始早々2月販売分が売り切れになってしまった。
 シグマブックは、高解像度1024×768(約180dpi)で、本のように見開き表示できる2画面の端末。大きさは開いた状態でA4ほど。重さは電池を入れていない状態で520gというから、電池を入れても厚めのハードカバーの本ぐらいだ。先送りや後ろ戻し、しおりと設定ボタンがついているぐらいで、きわめてシンプルな操作でページをめくれる。記憶型液晶というのを使い、表示した画面は電力不要でそのまま保持される。だから省電力で、数ヶ月間電池交換が不要と謳われている。
 コンテンツは5,000点がシグマブックのサイトや10daysbookで販売される。パソコンを使ってこれらのサイトからメモリカード(SDカード)にダウンロードし、カードを読書用端末に挿して読む。シグマブックは独自フォーマットを使っており、テキストファイルとビットマップファイルは表示できるものの、専用ソフトを使ってシグマブックのフォーマットに変換しなければならない。
「シグマブック」のビジネス展開についてメーカーや出版社が話し合う組織「電子書籍ビジネスコンソーシアム」が結成されているが、昨年9月に行なわれた記者発表では、コンソーシアムの特別顧問に就任した評論家の立花隆氏が、これまでの本の遺産をそのまま活かせる画像表示型の電子書籍の長所について力説していた。そのビデオ・メッセージは同コンソーシアムのサイトで見ることができる。

レンタル電子書籍
 「シグマブック」のあとを追うように発表したのはソニーで、「パブリッシングリンク」という子会社を設立し、電子書籍事業に乗り出すことが発表されている。こちらは、電子書籍を販売するのではなく「レンタル」で、一定期間が過ぎると読めなくなる。その代わり、これまでの電子書籍より安くするつもりらしい。読書用端末も発売するそうで、アメリカの「E-Ink」社と、同社に出資している凸版印刷が共同開発した電子ペーパーを使うという。記者発表などで披露された端末は見開きではなく1画面で、サイズは四六判の本と同じ、ディスプレイは文庫本ほどの大きさだ。電子ペーパーもいったん表示させれば画面を固定でき、低電力で電池の持ちがいい。
 このほか東芝なども端末の販売を検討しているようだ。

じつは「高くてかさばる本」のほうが電子書籍に向いている
 メーカーも出版社も、このように電子書籍事業に力を入れはじめ、「今年は電子書籍元年になる」と書きたてたメディアも多い。電子書籍を読むためだけに何万円もする端末を買う人がどれぐらいいるか、筆者はかなり疑問を感じるが、パソコンが「読むための端末」とは明らかにちがった方向に向かっている以上、電子書籍を販売したい人たちが、読みやすい端末を世に出そうとするのは当然の動きなのかもしれない。
 こうした電子書籍事業にもうひとつ感じる疑問は、コンテンツが小説やマンガ、ビジネス書など「軽い本」が多いことだ。いまの電子書籍事業は、いわゆる「本好き」というより、電子機器には馴染んでいるものの紙の本はあまり買わない層をターゲットにしているらしい。携帯電話で読む小説などはその典型だ。もちろん、こうした電子書籍があってもいいが、高い専用端末を買ってもらうためにはそうした読者ではむずかしい。高くてかさばる本を毎月何冊も買うといった人たちを意識している電子書籍ビジネスがあってもいい。こうした本は、短い期間で大部数を売るのはむずかしいが、ロングセラー向きで、本来はこうした本こそ電子化して長く売ることを考えるべきだろう。

「高くてかさばる本」の最たるものはミュージアムのカタログ
 以前もこのコラムで書いたが、「高くてかさばる本」の最たるものは、ミュージアムのカタログである。カタログは手間ひまがかかっているのに、「展覧会の期間が終わって最初に刷った部数がなくなればそれで終わり」ではあまりにもったいない。電子化していつでも購入可能にすれば、読者とミュージアム双方にメリットがある。著作権侵害が懸念されて作品の著作権者の理解がえられないということもあるのだろうが、著作権管理の方法も進化してきたから、そろそろ本格的にそうしたことが考えられてもいいころだ。
 先の電子書籍ビジネスコンソーシアムの記者発表会では、マンガ家の里中満智子氏が、「何十巻にもなるマンガはきちんと保存されず、絶版になるとそれっきりになることが多い。電子書籍の形で長く売ってもらえればありがたい」と熱弁をふるっていた。ミュージアムのカタログについてもまったく同じことがいえるのではないだろうか。
[ うただ あきひろ ]
前号 次号
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
ページTOPartscapeTOP 
DNP 大日本印刷 ©1996-2007 DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社が運営しています。
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社の登録商標です。
artscape is the registered trademark of DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
Internet Explorer5.0以上、Netscape4.7以上で快適にご利用いただけます。