掲載/歌田明弘|
掲載/影山幸一
持ち歩けるミュージアム
歌田明弘
大容量の携帯プレーヤーがもたらすもの
大容量の携帯音楽プレーヤーが人気を呼んでいる。これまではMDやメモリスティックなどを使った携帯プレーヤーが中心だったが、ハードディスクを搭載したものが増えてきた。40ギガのものまであって、一万曲ぐらいの音楽を保存できる。この市場の火付け役になったのはアップルの「
iPod
」で、5割のシェアを占めているという。ウォークマンの発売によって四半世紀前に携帯音楽プレーヤーの市場を切り開いた
ソニー
をはじめ、
東芝
などもハードディスク搭載携帯音楽プレーヤーを発売し、iPodを追いかけている。
これだけ大容量の記憶装置があれば、音楽会社や配信サイトは、これまでとまったく違った次のような売り方ができるはずだ。
「今月のJポップス新曲」とか「60年代フォーク」「サマーソング特集」など同系統の相当数の曲をまとめて圧縮ファイルにし、一括ダウンロードできるようにするのだ。リスナーは、それを携帯プレーヤーにダウンロードし、通勤・通学の電車や散歩、仕事をしながらなど、いつでも気が向いたときに聴く。ただし、一括ダウンロードしたのはサンプルなので、曲全部を聴けるとはかぎらないし、一回しか聴けないもの、一ヶ月たつと聴けなくなるものなど、提供側の設定によって制約をつけてもいい。リスナーは、聴いて気に入れば「購入リスト」に入れ、家に帰ってネット接続したときに、購入手続きをする。購入後は、携帯プレーヤーの永久保存スペースからいつでも再生して聴くことができる、という仕組みを作ることは可能だろう。
現在でもサイトやCDショップで試聴させて音楽を販売しているわけだから、「ただで聴かせる」と言っても販売につながれば、音楽業界にも不満はないはずだ。消費者の側も、電車のなかなど時間を持てあましているときに大量の音楽をタダで聴け、携帯プレーヤーで常時再生できる音楽のラインナップを増やすことができる。こうしたかたちの音楽配信が始まれば、きっと楽しいミュージック・ライフになるだろうと思うが、実際のところこうした音楽配信を始めているところはまだどこもないし、ここでは音楽の話をしたいわけではない。
新しいかたちのプル型広告
本欄でこのアイデアを紹介したのは、こうした携帯プレーヤーを使えば、ミュージアムについてもおもしろいことができると思ったからだ。たとえば、新たな展覧会の作品やその紹介、アーティストへのインタヴューなどをまとめてパッケージ化する。それを携帯プレーヤーにダウンロードして持ち歩いてもらう。たいていの携帯音楽プレーヤーはさしあたり音声だけだが、
静止画像表示できるもの
も出始めた。記憶容量が大きくなればなるほど、音楽だけではなかなか記憶容量を使いこなせないので、簡単な画像表示ができるプレーヤーは増えていくだろう。画面表示ができれば、視覚表示が必要なミュージアムのコンテンツなども利用できる余地が出てくる。
音楽にしろミュージアムのコンテンツにしろ、こうした携帯プレーヤー配信では要するに「広告」をダウンロードさせるわけだが、音楽やミュージアムに関心のある人には、広告というよりも、れっきとしたエンターテインメントであり価値のある情報である。携帯電話にしろ専用端末にしろ、記憶装置が大きくなれば、持ち歩いて、電車のなかなど有意義に使うことのむずかしかった時間帯に見聞きできる。こうした仕組みは、視聴者のほうからサイトにアクセスしてダウンロードして見るプル型の広告なので、視聴者が自分からアクセスしてくるぶんだけ広告価値は高いはずだ。
携帯ミュージアム
こうしたダウンロード配信は、サンプルや広告を送りこむためだけに使うことはない。有料のコンテンツをダウンロードするようにしてもいい。たとえば、雑誌のコンテンツなどを配信する。携帯端末なのでそれほど大きなディスプレイをつけるのは難しいだろうから、文字表示はできるだけせず、インタヴューなどの音声と静止画で構成する「雑誌」である。もちろん音楽などは入れられる。
本欄に即して言えば、「ダウンロード配信型ミュージアム」というのもおもしろいと思う。「○○展」をこのかたちでやってしまうのだ。作品と音声解説をまとめてファイル化し、配信する。画面は小さいけれど、解説はたっぷりできる。
通常のミュージアムの展示はじつはこれとまったく逆だ。作品は原寸大(オリジナルが展示してあるのだから当然だ)だが、解説は少し。われわれはミュージアムの展示というのはそういうものだと思っているけれど、ほんとうにそれが唯一の展示方法だろうか。
作品の画像は小さいが、それをダシに、いろいろな人があれこれしゃべっているのを聴くことができるミュージアムというのがあってもいいのではないか。ダウンロード配信して携帯プレーヤーで見聞きする「携帯ミュージアム」。大容量携帯プレーヤーはそういうミュージアムを可能にする。
前回
、解説を充実させても来館者は増えないかもしれないと書いたが、それはミュージアムというものが、歩いて通過しながら展示を見るという形式になっているからだ。展示一点について見る時間がどうしても限られる。
8月の本欄
で、一点だけ展示して見させるミュージアムというのがあってもいいのではないかと書いたが、そんなことを言いたくなるのも、ミュージアムの展示作品が、「通り過ぎがてらに見るもの」という地位に甘んじていることに違和感を感じてきたからだ。新たなメディアを使ったこれまでとは違ったかたちの「展示」は、ミュージアムの新しい可能性を切り開く。画像表示できるプレーヤーはまだ少ないからただちにと言うわけにはいかないかもしれないが、コンテンツを持っている人たちのアイデアと勇気があれば、多様で楽しいミュージアムができるにちがいない。
[
うただ あきひろ
]
|
掲載/歌田明弘|
掲載/影山幸一
ページTOP
|
artscapeTOP
©1996-2007 DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社が運営しています。
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社の登録商標です。
artscape is the registered trademark of DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
Internet Explorer5.0以上、Netscape4.7以上で快適にご利用いただけます。