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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ スタディ
J.Paul Getty Museumのデジタルアーカイブ
影山幸一
Museum入口
Getty Centerよりロサンゼルス市内を望む
上:Museum入口、トリムは左手前に着く
下:Getty Centerよりロサンゼルス市内を望む
空に近いGetty Center
 1997年12月に開館したJ.Paul Getty Museum(以下、Museum)。アメリカの美術館でもとりわけ先進的なデジタルアーカイブを実施している。丘の上に立つ、白く輝く美しい建築のMuseumと手入れの行き届いた庭園で名高いGetty Centerを訪れた。ロサンゼルスの郊外、サンタモニカ山脈のサンディエゴ・フリーウェイ(405号線)近くにMuseumと研究所、図書室、庭園を併設するGetty Centerがある。1983年、Getty財団が750エーカー(約90万坪)の土地を購入し、翌年に建築家リチャード・マイヤーが設計を行ない、自由な散策が楽しめる庭は芸術家ロバート・アーウィンらのデザインである。
 郊外にあるGetty Centerへは、車で行くことが多いと思われるが、メールなどで事前に駐車場を予約しておけばスムーズに駐車することができる。1階から地下6階までの広大な駐車場にアメリカを感じるだろう。丘の上の施設入口までは、駐車場1階にある専用トラム(小型電車・無料)に乗り、窓越しの景色を楽しんでいると5分ほどで到着する。Museumファサードの広々とした階段が迎え入れてくれる。麓とは異なる、広く近い空が開放的だ。
 Getty Centerは研究所と図書室を除き、Museumと庭園は一般に公開(無料)されており、眺望のよいカフェやレストランで食事を楽しむこともできる。さまざまな人たちがそれぞれに自分の好きな、居心地のよい場所を見つけられそうだ。日本からメールで訪れたい旨を伝え、快く受け入れてくれたスタッフのように、懐の深さを感じる。

J.Paul Gettyの夢のかたち
 ゴッホの「アイリス」などを収蔵するMuseumは、故J.Paul Getty(1976年83歳死去)が個人収集したコレクションを基に古典古代美術、彩色写本、ヨーロッパ絵画、素描、装飾美術、彫刻、写真を収集、収蔵している。石油王といわれた氏が、1954年5月カリフォルニアのマリブでMuseumを開館したことに始まるこのMuseumは、氏の考えであった「芸術への思考のない者は完全に文明化されないが、芸術を見る、知る、ということができなければ、興味を感じることさえもない」を具現化して、芸術の教育的普及のために公開された。デジタルアーカイブの先端を行くこのMuseumは、外へのネットワークを有効活用しながら、またパリのルーヴル美術館のように、館内で独自のデジタル化を推進している。
 Museumは、作品の収集活動が継続され、収蔵作品数が増え続けている。そのためなのか、Museumの収蔵作品数の質問に対し、回答を得られなかったのは意外であったが、作品管理ほか、研究、教育、広報と多用にデジタル画像を活用している。

デジタルアーカイブの構築

作品撮影風景
オペレーター
上:デジタルカメラでの作品撮影風景
下:デジタル画像を作成するオペレーター
(取材協力:J.Paul Getty Museum)
 デジタル画像の構築においては、収蔵作品すべてがデジタル化されている。たくさんの4×5カラーポジフィルムをスキャニングし、約200MBのTIFF形式でテープに保存している状況から、プレーンなかたちで最大解像度を残そうとする方向性がうかがえる。またテープからDVD-Rへメディアが移行中であった。さらに作品を直接デジタルカメラで撮影する割合が増えてきたという。そのデジタル画像取得方法は、日本でも同様な変化があり、オーソドックスなものだろうが、実際それらの考えを実践できるように業務としてシステム化している点は着目するに値するだろう。経験の蓄積と判断のスピード感は、新たなデジタル環境を切り開くパワーを備えているように見える。日本ではデジタル記述方式などの標準化を気にしつつ、デジタル化を積極的に進めることができない施設が多いが、試行錯誤の経験に伴ったデジタル的感性を養っておくことは、決して無駄なことではなく、次世代に生かせる知恵となる。
 Museumには、デジタルアーカイブに関する部署のDigital Imaging Labに5名、Photo Services groupに9名の専用スタッフがおり、新しい機器に工夫を凝らしながら最善のデジタル化を試みている。毎年の安定した予算とその環境をうらやましく思う一方、低コストでデジタルアーカイブを構築できるのではないかとも思えた。デジタル画像の取得には機器や撮影環境のほかに必ず人の手が入る。この人の手があってこそ、高度の機器も整備された環境も生かされる。

デジタルアーカイブの運用
 デジタル画像の運用については、保存用とは別にオンライン用に圧縮作成した40MBのデータからFlash PixバージョンとWebバージョンの画像を作成している。保存用データと活用用データを明確に区別しているところに注目したい。研究員・保存修復家を含む内部関係者の使用のすべて(収蔵作品管理など)、Webサイト、館内キオスク(Getty Guide)、本、報告書、展覧会デザインに活用しているが、ワンソースマルチユースの典型的な展開であろう。やはりビジネスよりも教育に資するものが多いことが大きな特徴といえる。
 Digital Media SpecialistのMr.Roger Howardに伺ったところ、いまの課題はデジタルデータ貸出しの際の取り扱い説明であるという。まだ、ユーザーがデータの使用方法(マナーなど)を知らず、その対応に追われているらしいが、時間が解決するだろうと捉えている。
 なお、今回はMuseumを取材対象としたため、Getty財団が運営する芸術史情報プログラム(AHIP:Art History InformationProgram)ほかの調査は行っていない。

 Museum内のDigital Imaging Lab、Imaging ManagerのMs.Carol Hernandezと上記のMr.Roger Howardから作品撮影スタジオ、デジタル画像処理室、Art Information Rooms、Museum Shopと現場を案内して頂きながら、状況をお伺いした。詳細なデータ取得まで至らなかったが、以下、Mr.Roger Howardが教えてくれたデータを表に整理し、Getty Museumのデジタルアーカイブをお伝えする。デジタル時代に継承されるJ.Paul Gettyのひとつの夢のかたちである。


■J.Paul Getty Museum デジタルアーカイブデータ
デジタル作業者 Museum収蔵品のデジタル化は、Photo Services groupとDigital Imaging Labの二つの部署のスタッフによって行なわれている。Photo Services groupに伺ったときは、他館の作品をカメラマンがデジタルカメラで撮影し、隣でオペレーターがMacintoshのPhotoshopで画像ファイルを作成していた。
デジタル化手法 Photo Services groupによる4×5ポジフィルムをDigital Imaging Labがドラムスキャンによってデジタル化。最近はPhoto Services groupがPhase One社のPhaseFXとH20、Better Light scanning backsを使用して直接デジタルカメラで作品の写真を撮影する、直接デジタル化に移行している。
デジタル化機器 ICG社製ドラムスキャナー2台でポジフィルムのスキャニングを行なっている。ほかにNikon D1などデジタルカメラ数台。
3次元計測 デジタル化としては実施していない。
特殊な撮影 サイン部分のみの撮影やUV(紫外線)、IR(赤外線)、X-RAY(レントゲン)など必要に応じて撮影している。
解像度 4×5ポジフィルム約200MB。それをオンライン用に圧縮した約40MB。Web、そのほかに使用するいくつかの小さいサイズの解像度がある。
インターネット画像の解像度 800×600(最大)。特別事業の時はそれ以上。
保存形式 すべてTIFF(最大解像度)で撮影・スキャンし、40MBに圧縮してファイル化。スタッフのコンピュータとキオスクから早くアクセスする40MBファイルのためにFlashPixを使用している。WebファイルはJPEG。
保存媒体 保存媒体はミックスして使用している。オリジナルスキャンした200MBのファイルはテープに保存し、現在これをDVD-Rに移動中。画像サーバーは巨大なLarge Robotic Tape Backup Systemによって、夜と週末バックアップを行なっている。ほかの目的のためCD-Rにもバックアップしている。
保存データの更新 マルチプル・バックアップで複数のメディアに保存している。メディアを更新し、データを継続して保存。現在CD-RからDVD-Rへ移行している。5年毎以内にほかのメディアへ移行する。
色の確認 4×5カラーポジフィルムをスキャンする時、写真家と学芸員は、フィルムの正確な色が何であるかを決める。ポジフィルムの時は、スキャナーを使用し、デジタル画像をポジフィルムの色と合わせる。作品を直接デジタル撮影する時は、デジタル画像は学芸員とイメージスタッフと写真家によって、作品と比較する。
データベース デジタル画像は、現在のところいくつかのシステムで管理されている。Museumでは、TMS(Oracleデータベースの上に走らせているアプリケーション)によって収蔵作品のすべての画像が登録されている。主要なデジタル資源管理システムを探しているところである。
電子透かし Web画像だけで、それ以外は入れていない。
収蔵作品以外のデジタル化 広報(プレス写真、イベント、エグゼクティブポートレートなど)のデジタルメディア関連の資料管理、保存をしている。ドキュメンテーション事業のメディア(サイト事業分野の写真、写真工程など)の収集、その他。デジタル化のすべてのタイプ──ダイレクトキャプチャ(デジタルカメラ)、スキャニング、3Dスキャニング、オリジナルデジタルクリエイションズなど行なっている。
デジタル化の館内制作の理由 安全性。われわれはデジタル化のために現場を離れて作品を運ぶことができないほど仕事の量を与えられている。Photo Services groupとDigital Imaging Labを運用することが最も道理に適っている。
Digital Media Specialistの仕事 デジタル資源管理の実施とシステムを開発すること。
デジタル画像活用法
(デジタル化の目的)
Museumコレクションしているすべての芸術作品のために、作品の代替として高解像度デジタルのアーカイブを行っている。派生的に生産したファイルのアーカイブからMuseumの本・報告書などの出版物や、Webサイト、展覧会デザイン(ポスター、バナー、2次的なもの)、研究員と保存修復家を含む内部の使用のすべてのもの(収蔵作品管理など)。そして、Museumのローカルキオスクシステム(Getty Guide)を通して画像を配信している。
Getty Guide(Art Information PC) Museum内にある4つのArt Information Roomsに設置されているArt Information PCでは、学芸員の研究成果と教育係の編集により、収蔵作品に関わる情報が分かりやすく表示される。画面の項目には、主題・アーティスト・辞書・地図・顔・年表がある。
教育的活用 キオスク・システム(Getty Guide)、Webサイト、出版など教育の努力に対しあらゆる支援をしている。
ビジネス活用 Museumのデジタル画像は、収蔵品管理システムに集約されており、Museumの主要なビジネス活動を支援している。
展示の活用 広範囲にわたっている。Fax、記録、出版、オンライン、バナーなどに使用している。
デジタル画像利用者 学芸員、研究員、グラフィックデザイナー、保存修復家、内部スタッフ、外部パートナーなど。
館内と館外の区別 すべてのMuseum収蔵作品は、たくさんのメディアに関連付けられており、一般的に館内スタッフはすべての内部メディアにアクセスすることができる。キオスクの制限。そして、さらにWebやほかの機関や出版、印刷も制限できる。
権利対策 収蔵品管理システムを通して収集しているすべての人工物と芸術作品のために情報権を管理している。デジタルファイルの権利は、フィルムやほかのメディアよりも難しくない。
予算について Museum内のデジタル化はMuseumの継続的活動の一部である。一回の資金や許可のために応えたものではない。活動予算は毎年計上される。
今後の予定 主な焦点は、写真撮影方法がデジタル写真へと移行しているということである。一方で、主要な関係事項としては、メディアとメタデータの管理がある。そして、現在デジタル資源管理システムを見極めているところである。
(2003年7月現在)

[ かげやま こういち ]
次号
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