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『デジタルアーカイブ白書 2004』
発行:デジタルアーカイブ推進協議会
発売:株式会社トランスアート
定価:2,700円(税込)
2004年3月31日
207頁/B5判変形/並製
ISBN:488752188X
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時代の重い扉を開く「白書」
美術や芸術に興味を抱く人に、「白書」という種類の出版物について関心を示す人は、少ないことだろう。白書とは、もともとイギリス政府の公式報告書のことをさし、報告書の表紙が白いのでWhite Paperと呼ばれる。日本では昭和22年(1947年)、「経済実相報告書」として、わが国初の白書が発表されたそうだ。戦後空前の経済危機のただなかにある日本経済の実状を政府と国民が一緒に考え、解決の道を探り出すために、経済安定本部(経済企画庁の前身)が、その混乱した経済の実態を国民に報告したというのが、日本の白書の起こりであるという。復興に懸命な戦後の日本人が、先の見えない大きな時代の転換期のなかで白書に託す思いは大きかったのではないだろうか。それは奇跡的ともいわれる経済大国への道の出発点でもあった。
今、デジタル時代は突然のようにやってきて市民生活に急激に広がりを見せている。一家に1台のパソコン、一人1台の携帯電話が現実のものになってきているが、得体の知れない何かしらの不安が伴ってはいないだろうか。デジタルという目に見えないさまざまなデータが生活を豊かにしている、しかし世界は戦争をはじめた。不戦の憲法を選んで半世紀以上を過ごして、少しずつ平和を積み重ねてきたはずの日本人にも戦争が近づいてきているような不安感。先の見えない時代の何か重苦しい扉を開くのは、現実を越えた向こう側を可視化させてくれる芸術であり、またその対極に位置するかのようだが、白書なのかもしれないと思える。
日本で誕生したデジタルアーカイブ
『デジタルアーカイブ白書 2004』(デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)刊、207頁、定価2,700円)が4月に発売された。既刊に『デジタルアーカイブ白書 2001』『デジタルアーカイブ白書 2003』がある。「2002」はない。デジタルアーカイブ(Digital Archives)とは、日本で生まれたオリジナルな和製英語で、徐々に世界で通用する言葉として認知され始めている。デジタル技術を使い、先人たちの生み出した、あるいは現在生み出されている文化資産・歴史遺産などをデジタル化し、またデジタル製作物などを保存・活用して、新たな文化や知識生成に役立てたいという考え方に基づいている。対象範囲は広大だ。日本で誕生したデジタルアーカイブを推進しながら、よりよいデジタルアーカイブの概念やその方法を探り出そうというのが「デジタルアーカイブ白書」である。そこに答えはないからノウハウ本に慣れた人には苦しみを伴うが、答えを自分で発見したい人にはアプローチする切り口や素材がいっぱいだ。
デジタルアーカイブの現状を把握できる具体的な事例
美術館・博物館、図書館・公文書館・大学・研究機関、自治体・公共団体、推進団体の広範囲にわたった調査と事例が、第3部としてメインに据えられている。アンケート調査、Webサイト調査に続いて、具体的な事例が見開き(2頁ずつ)で構成され、読みやすさを配慮している。18名の執筆人である。1章の「博物館・美術館」の事例では、東京国立博物館、正倉院、国立劇場(伝統芸能情報館)、岩手県立美術館、浜松市楽器博物館、川崎市市民ミュージアム、五島美術館、大乗寺を取り上げ、規模やコンセプトなど設立背景のまったく異なるラインナップで、デジタルアーカイブの全体像が俯瞰でき、読者の必要に応じて事例が参考になる。第4部には「メディアと産業の動向」がある。放送局、新聞社、出版社、写真、映画などの現状が具体的事例で読むことができる。第5部の「関連動向」では、1章に国内外の3次元計測機器を紹介。小さな壺から巨大な建造物まで、実物に触れず正確に計測ができ、そのデータはレプリカ製作にも有用という。2章の「メタデータ記述方式の標準化動向」では、学術的、文化的な情報資源が地域を超え(図書館・博物館などの館種を超えて)、時間を超えて、アクセスすることが可能になってきていることを、ミュージアムの情報化に詳しい専門家が解説している。「情報検索用標準プロトコルZ39.50」もわかりやすい。4章は「著作権及びその他の権利問題」である。デジタルが身近になったことで、コピーによる著作権問題もにわかに身近な問題であるが、最近の裁判例とその実務上のポイントのほか、著作物の自由利用への動きが具体的なマーク入りでわかりやすい。5章の「パッケージ化商品」では20世紀の精華ともいえる「國華」や「日本アートアニメーション映画選集」など特徴のあるDVDが紹介されている。6章では「国内グッドWebサイト事例集」として「優れたWebサイトとは何か」を考える試みが具体的な画面表示で見ることができる。最終項目の「資料」は、関連団体の一覧や用語解説などがあり、実際に使って役立ちそうな保存版だ。
専門的な用語にはそれぞれのページに脚注として解説が掲載されており、一般読者向けの配慮がされている。ちょっと難しいと敬遠しがちな、デジタルアーカイブの世界が、銀河をイメージした表紙の「デジタルアーカイブ白書 2004」にまとめられた。先の見えない時代の何か重苦しい扉を開く白書のひとつではないだろうか。
お問合せ・お申込み
(株)トランスアート
http://www.transart.co.jp/
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