|
|
国立国会図書館のデジタルアーカイブポータル
──美術を超えて美術を創造するために
影山幸一 |
|
「国立国会図書館データベースフォーラム」開催
創造的破壊という言葉を美術の文脈で使うことがあるが、国立国会図書館(NDL:The National Diet Library)が、国立から事業の採算性を求められる独立行政法人化(独法化)するという噂を耳にしたときは、少々あせった。破壊が創造に向かわず、ゆるやかに破壊の一途をたどるのではないか、国の骨格が気づかぬうちにくずれていきそうな危機感を感じた。国立の独法化への移行をすべて危惧してはいない。
2001(平成13)年に独法化した東京国立博物館では、意欲的な事業展開や情報化への取り組みなど、外部評価を受け入れる風通しのよさそうな軽やかな変身ぶりは、さすが東博と思わせるものがある。
|
国立国会図書館本館全景
写真提供:国立国会図書館 |
2005年10月には、東京・京都・奈良と並ぶ、独立行政法人国立博物館4館のひとつとして、九州国立博物館が、福岡・太宰府天満宮を抱くように広大なスケールで開館した。“見せること”を職掌のひとつとするミュージアム独法化の努力の成果は、館外の者にもわかるように具体的な形として表われてきている。
そんな独法化の気運のなかで、わが国唯一の国立の図書館として、NDLは、昨年2006年12月7日、満を持した初の催し「国立国会図書館データベースフォーラム」を開催した。図書館関係者ばかりではなく、入場無料で事前に申し込みをした約300名の利用者で新館講堂は熱気に溢れていた。
電子図書館への道
NDLは、戦後民主主義と共に誕生し成長してきた。国会議員の活動を情報面で調査・補佐する議会図書館であると同時に、国民が情報を持つことにより民主主義は実現されるとして、国民に情報を提供する中央図書館としての機能を併せ持っている。
1948(昭和23)年2月に公布・施行されたユニークな国立国会図書館法の下に、6月赤坂離宮(現迎賓館)を仮庁舎にて開館した。納本制度により、国内で発行された図書・逐次刊行物・楽譜・地図・レコードなどを対象に収集を始める。
1961(昭和36)年8月、現庁舎(東京本館・千代田区永田町)の第一期工事が竣工、205万冊の蔵書を擁する図書館として活動を開始。開館20周年の1968(昭和43)年に東京本館が完成した。1986(昭和61)年には新館を建設し、1,200万冊の資料が収蔵できるようになった。
デジタルアーカイブへの取り組みは、1995(平成7)年「パイロット電子図書館実証実験」とともに開始、「電子図書館」の時代を迎えた。このプロジェクトの背景には1993年当時の通商産業省が、公的分野の情報化を社会全体の情報化の起爆剤として促進し、特に電子図書館のシステム開発として17億5千万円が割り当てられ、NDLがこの電子図書館システムの実用化実験に協力することとした。開発には情報処理振興事業協会(現情報処理推進機構:IPA)があたった。
1998年は「国立国会図書館電子図書館構想」を策定。2000年にはCD-ROMなどの電子出版物が収集対象に加えられた。そして、2002(平成14)年5月、支部上野図書館(旧帝国図書館)を改築した日本で初めての国立の児童書専門図書館、国際子ども図書館が全面開館した。また同年10月には長期的な収蔵スペースの確保と、高度情報化に対応した図書館サービスの提供を目的に、関西館(京都府相楽郡)も開館している。
この関西館開館を機に、目録情報の充実や、明治期刊行の和図書の画像情報を提供する「近代デジタルライブラリー」、Webサイトや電子雑誌を文化資産として収集保存する「インターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP)」など、本格的なデジタルアーカイブ構築に乗り出す。
「国立国会図書館蔵書検索・申込システム(NDL-OPAC)」では、インターネットから雑誌記事索引を含め収載する1,500万件以上のデータを検索でき、複写・郵送などのサービスも受けられる。2002年度までに達成したサービスの拡充を基に、利用者サービスの改善など、継続的に業務改善に取り組むため2004年2月「国立国会図書館ビジョン2004」を策定、NDLのビジョンを発表した。2006年度の重点目標としてデジタルアーカイブの構築が掲げられている。
|
本格的デジタルアーカイブポータルへ
|
データベースフォーラムの会場風景 |
日本の知の宝庫でもあるNDLは、急速に変化する社会の先を見据えデジタルを取り入れ、民主化を加速させている。インターネットの普及により、情報はいつでも・どこでも均等に提供されるようになってきた。どのように使いこなすかはその人次第なのだ。情報資源を集積・提供してきたNDLが主催する初の「国立国会図書館データベースフォーラム」は、午前10時から午後5時まで、4部構成によりNDLのWebサイト内にある20のデータベース*について、東京本館・関西館・国際子ども図書館の各部署の担当者により解説が行なわれた。
当日配布されたパンフレット「国立国会図書館 インターネットにおける知識・情報の宝庫」と各データベースの概要をまとめたシートやスライドなどの関連資料は、NDLのホームページにPDFで公開されている。
特に興味深かったのは、インターネット上の貴重なデータベースまでナビゲーションしてくれる「Dnavi」や、約430館の参加図書館が協同して、レファレンスの調査記録を日々データ登録している「レファレンス協同データベース」、またアジアを知る有用なサイトを選択した「AsiaLinks-アジア関係リンク集」などのほか、「NDLデジタルアーカイブポータル」。これは広く国のデジタル情報全体をワンストップで検索・閲覧できるようにし、デジタルアーカイブの利活用を促進する総合的なポータルサイトを構築している。青空文庫、デジタル岡山大百科、国立公文書館デジタルアーカイブ・システムなど15種類のコンテンツがある(2006年12月現在)が、まだアート関連のデジタルアーカイブがないのが残念である。「文化遺産オンライン」などアートとの連携が期待される。2005年7月に提供を開始したプロトタイプから2007年度中に本格システムへ移行する。
*:国会会議録検索システム/帝国議会会議録検索システム/日本法令索引/NDL-OPAC/雑誌記事索引/アジア言語OPAC/総合目録ネットワークシステム/Dnavi:データベース・ナビゲーション・サービス/テーマ別調べ方案内/レファレンス協同データベース/AsiaLinks-アジア関係リンク集/アジア情報機関ダイレクトリー/近代デジタルライブラリー/貴重書画像データベース/WARP/電子展示会/国際子ども図書館絵本ギャラリー/児童書デジタルライブラリー/児童書総合目録/NDLデジタルアーカイブポータル
|
「真理がわれらを自由にする」
膨大なデジタルデータは、もともと紙面1ページ1ページを繰ってスキャンしたり、目録情報を入力する極めて地道なアナログ的な手作業の繰り返しの賜物である。デジタルアーカイブから、アナログのインスピレーションが生まれることがある。またインターネットから届くデータはデジタルでも、原物に会いたくなるのは私だけではないだろう。美術館や博物館に足を運びたくなるし、図書館に行きたくなるのだ。
NDLの東京本館は今賑わいを見せている。天井の高い中央の出納台の上に国立国会図書館法の前文にある「真理がわれらを自由にする」という言葉が掲げられており、その横には同義のギリシャ語が刻まれている。第一期工事の折に刻まれたというこの悩ましくも感動的な言葉を体感できる。重厚な柱や壁、床の石など歴史的建造物は何かを語る。
本館ホールに並ぶコンピュータ端末の隣には、歴史を物語るかのような手書きの目録カードが重厚な引出しに残されている。意味もなく、引出しを覗いて見る。手垢のついた、整然と並べられたカードが、何かアウラを宿していた。廃棄される存在だったかもしれない古びたものが、用を超えて存在することの意味は何か。NDLにいて東京都現代美術館で見た『大竹伸朗全景展』の圧倒的な作品を思い出していた。
NDLでのフォーラムの翌日、12月8日には国立公文書館に付置された「アジア歴史資料センター(アジ歴)」のシンポジウム「歴史が蘇る デジタルアーカイブ」が開催された。アジ歴は、近現代のわが国とアジア諸国との「歴史事実」を共有しようと、2001年11月に発足。重要な公文書等の原本画像約1,260万画像(2006年12月現在)を世界でも類を見ない規模でデータベース化、閲覧可能としている。わが国を先導するデジタルアーカイブのひとつ。「NDLデジタルアーカイブポータル」からもアクセスできる。
|
■参考文献
稲村徹元・高木浩子「「真理はわれらを自由にする」文献考」『参考書誌研究(復刻版)』35号, p.1-7, 1997.11.13, 国立国会図書館(原誌発行), アイアールディー企画
『国立国会図書館五十年史 本編』1999.3.31, 国立国会図書館
「デジタルアーカイブ白書2001」2001.6.21, デジタルアーカイブ推進協議会
「デジタルアーカイブ白書2005」2005.3.31, デジタルアーカイブ推進協議会 |
2007年1月 |
|
[ かげやま こういち ] |
|
|
| |
|
|
|
|
|