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学芸員レポート
札幌/鎌田享東京/南雄介大阪/中井康之|山口/阿部一直
transmediale.05/「オープン・ネイチャーI 情報としての自然が開くもの」/「ANTI REFLEX」/「時間旅行」展/「syn chron」
山口/山口情報芸術センター 阿部一直
 今回は仕事先で訪れたベルリンレポート。2月初旬のtransmediale.05では、山口情報芸術センター(YCAM)で昨年5月に制作した、三上晴子+市川創太のインタラクティヴ作品《gravicells―重力と抵抗》が招待されており、展示の中核をなしていてかなりの好評であった。アインシュタインの没後50周年にあたる今年は、特殊相対性理論発表後100年にもあたり、現代アートも含めた記念の大きなイベントが、戦前アインシュタインと縁が深いベルリンで多数企画されているらしい。情報化時代となり、科学とアートが再び融合するとする楽観的意見はよくみかけるが、ジジェクの指摘を待つまでもなく、両者が乖離する様々な要因こそ想起する必要がある。科学とアートの融合問題は、いつ時代においても危険な賭けと表裏一体であることを見失うべきではないだろう。そうした意味でも新たなインタラクションを提起した《gravicells》がベルリンのオーディエンスにお披露目できたことは意義深く映る。《gravicells》における科学の側面とアートの側面はどこか、そしてアートが導入されることで何が変わるのか?
 さて、2月下旬には、カールステン・ニコライの大規模なサウンドインスタレーション《syn chron》のプレミエが新国立ギャラリーであった。ニコライといえば日本でもかなりの新作を発表しているのでご存じの方も多いだろう。ワタリウムでの個展(2002)をはじめ、NTTインターコミュニケーションセンターの「オープン・ネイチャーI 情報としての自然が開くもの」にも参加予定なので、そこで新作に接することができるにちがいない。ニコライは坂本龍一とのコラボレーションCD『insen』を発表したばかりで、今年は両者のEUライヴツアーもあると聞く。造形アートと非物質な音の物理的特性上のデザインによるサウンドアートによって、パラレルに活動を繰り広げるニコライだが、時にまったく何の造作も加えない物理現象や生態現象を提示するだけでアートとするなど、アートの本来性やコンテキストを無視する点では独特であり、きわめてラディカルであるともいえる。
 今回のベルリンの《syn chron》は不等辺4角形と不等辺5角形の組み合わせからなる巨大な多面体を、飛行機の機体を組むハニカム素材を使って組上げた立体物に、6機の白色レーザープロジェクションで、立体内外に透過する映像をオールラウンドから投射するというもので、もちろんサイン波を多用した音もシンクロする。この《syn chron》は物理現象を基にするコンポジションであるといい、コンポジションは背後にあるミニマルな組織の発見(発明ではなく)を指し示すだろう。
 この1カ月前に、フランクフルトのシルンクンストハレでスタートしたレトロスペクティヴ展「ANTI REFLEX」では、こうしたコンポジションに、オプティカルな光学原理の反射性を対照させ、光と反射のホワイトアウトによる脱視覚のホワイトルームの作品群と、ステルスによるダークネスな脱視覚によるブラックルームの作品群を作り上げており、圧巻である。目を凝らすとそこには、アルブレヒト・デューラーの「メレンコリア」の中の多面体が、重低音のみを発しつつ巨大な黒い塊となって横たわっているのである。この形こそは発明なのか発見なのか。そこにある微細な物理現象の生みだす造形に辿り着くには、光学のオンオフによるミニマリズムを通過せねばならない。科学が自明とする透視性自体(あるいはアートもだろうか?)がそこでは危うくされているのである。ニコライが仕掛ける視覚と音の関係は、両翼から相互に新たな交点を見出そうとしているかのようである。

会期と内容
●「オープン・ネイチャーI 情報としての自然が開くもの」

会期:2005年4月29日(金・祝)〜7月3日(日)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)
会場:NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 フリーダイヤル 0120-144199

学芸員レポート
 山口情報芸術センター(YCAM)では、東京の日本科学未来館と地元の山口大学時間学研究所と提携して大規模な企画展示「時間旅行」展を開催中である。この展示の面白い点は、科学博物館的な知識とモデル標本からなる真実としての科学の報告ありきではなく、文化としての科学、科学の表現としてのアートを見せていこうという立場から、科学者とアーティスト、デザイナーが恊働して、感覚体験重視型のコンテンツを思いっきり作り上げていることである。東京で2年前に展示した内容を、巡回用にほとんどを作り直し、上海とメキシコで展示した後の日本で初の巡回展である。
 日本科学未来館の寛容な配慮によって今回の山口展では、それらの巡回用コンテンツに、さらにYCAMでオーガナイズした新制作作品をいくつか追加している。オリジナル展が、生命科学、宇宙科学中心であったので、そこには芸術体験としての生きられる時間の視点がある意味欠けていたのを補う必要を感じたからだ。科学においては、確定される多様な時間の真実を受け取るのであるが、芸術においては時間は創造されるものなのである。追加コンテンツには、マイクロソフトと日本の某銀行のネットワーク上も含めた株式売買情報のやり取りの速度を比較して可視化した山田興性と國原秀洋の《マーケットアズスピードスペクトラ》、1日前のその場の音が環境音化する中居伊織の《レイヤードスケープ〜音の地層》、また文化庁メディア芸術祭アート部門で優秀賞を獲得した平川紀道の《グローバルベアリング》の大幅なインスタレーション改訂版などがあるが、中でも自ら制作実現して実に飽きさせない発見に充ちた作品となったと思われるのが、毛利悠子と三原聡一郎の新作サウンドインスタレーション《ヴェクサシオン―コンポジションインプログレス》である。
 ヴェクサシオンはいうまでもなく、家具の音楽を提唱したエリック・サティが1895年に作曲した謎のピアノ曲で、1分ほどの単音列と和声音列I、IIを順に840回繰り返せという反復音楽の元祖といえるような作品だが、その元フレーズを、この作品ではシーボルト事件で有名なシーボルトが1828年に山口に残したといわれる日本最古のピアノ(熊谷美術館所蔵・山口県萩市)を使って演奏録音し、さらにコンピュータの独自のプログラムを使って反復させるサウンドインスタレ−ションとしている。空間にスピーカーから流れる音源の物理音と周囲の環境音やノイズなども加えながら、それをまた同時録音し、コンピュータがその音響を自動解析し、楽音として再楽譜化する。それをデータとしてサンプリングされている例のピアノの全鍵盤音から再度楽音化し再生するという反復システムである。
 環境音のフィードバックループを直接繰り返せば、ホワイトノイズ化していくが、一旦有効楽音にデジタイズして還元することで、思っても見ない音の組織の問題に直面する。人間は環境音の中から楽音だけを意識の中で特別に認織別するが、マイクは空間上での音の物理的特性として認織する違いがここでは露となるのだ。認織はデジタイズ、感覚化はアナログという絶縁と変換の差異のループをこれほど明確なパフォーマンスとして現前化されるのは例がない体験だ。考えればシェーンベルクの無調以前に仕組まれたはずのこのサティの音列、実は最初からこの迷宮を見通していたのかもしれない。
会期と内容
●特別総合企画展/シリーズ科学とアートの対話「時間旅行展」
●会場: 山口情報芸術センター(YCAM)
山口県山口市中園町7-7 tel. 083-901-2216
●会期: 2005年3月19日(土)〜6月19日(日)
●休館: 火曜日
●詳細: 「時間旅行展」公式ホームページ
[あべ かずなお]
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