小沢剛「ホワイトアウト─太宰府─」
子どもとともにデザイン展〜色のカタチ・音のコトバ〜/泉守りの旅
HIGO BY HIBINO石垣プロジェクト/ピクニックあるいは回遊 |
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熊本/坂本顕子(熊本市現代美術館) |
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本連載を拝命して、熊本を中心とする南九州のアート情報をお伝えするなかで痛感するのは、定期的に現代美術を紹介するスペースの決定的な少なさだ。地方において、人材や資金、スペースなどといった基盤が脆弱であるのは当然である。しかし、単にそういった状況を嘆くのではなく「いわゆる」美術館やギャラリーによらない、柔軟なかたちで現代美術を紹介していこうという頼もしい動きがあるのも確かである。
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そのひとつが、太宰府天満宮アートプログラム第4弾「小沢剛『ホワイトアウト─太宰府─』」だ。この天満宮の宝物殿は、昭和3年に開館した福岡県の登録第1号の博物館であり、菅原道真公の書やゆかりの品々、美術工芸品など5万点を所蔵する、いわば博物館の「祖型」である。その企画展示室を利用して、太宰府という場の持つ、開放性と固有性をテーマに、副館長の西高辻信宏が企画するのがこのアートプログラムで、これまで日比野克彦、長谷川純、春木麻衣子が参加アーティストとして展示を行なってきた。
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小沢剛《ホワイトアウト─太宰府─》
観世音寺での展示風景
写真提供:小沢剛 |
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小沢剛を迎える第4弾となる今回、宝物殿での展示を前に、非常に贅沢な1日限りのインスタレーションを見ることができた。場所は太宰府天満宮、九州国立博物館にも程近い、清水山観世音寺。その宝蔵に安置される十数体の仏像のすべてが重要文化財という九州を代表する古寺である。そのうちの、阿弥陀如来座像と四天王立像のある一角を利用して、小沢がインスタレーションを行なったのが《ホワイトアウト─太宰府─》だ。
雲海からにょきっと顔を出したような、仏様たちのなんともユーモラスな姿。来場者は高さ約1メートルの台にのぼり、通常は見上げるかたちで参拝する仏と同じ目線に立つことで、まるで同じ温泉につかっている入浴客のような親しみを仏様たちに覚える。太宰府という場所の持つ力が、小沢ならではの手法でうまく活かされ、筆者も思わず台の上で2度とないであろうひと時の至福を味わった。この贅沢なワンデイショーの背景には、名刹の重文という点での苦労もあったと思われるが、展示を許可された寺社側の懐深さに、他者を受け入れる九州という土地ならではの大らかさを感じた次第である。 |
また、もうひとつ熊本県内からお伝えしたい動きが「南阿蘇えほんのくに」である。この「えほんのくに」は、南阿蘇という広大な自然をフィールドとして、絵本の紹介や展示だけにとどまらず、ハイキングなどの自然体験活動や創作なども含めた活動組織だ。今回、九州大学ユーザーサイエンス機構、熊本県との共催で行なわれたのが、「子どもとともにデザイン展〜色のカタチ・音のコトバ〜」である。目黒実の監修によるこの展示は、国内外の優れた絵本と玩具やデザイン製品、ハンズオンやワークショップなどを効果的に組み合わせ、九州をベースとしながら、病院内のスペースから熊本の道の駅まで、自由自在に「旅する」ように継続して展開されている。
そこに特別展示されたのが、《泉守りの旅 南阿蘇》。《泉守りの旅》とは、小粥丈晴の彫刻《泉》をさまざまな土地の人々に体験してもらうことで、新たな物語をつむいでいくプロジェクトで、これまで東京や静岡、長崎などを旅して、この南阿蘇にたどりついた。この《泉》は、ハンドルを回すと、純白の磁器による山型の彫刻部分が回転し、内部から水が湧き出でると同時に、坂本龍一作曲の音楽がオルゴールで響くものである。雄大な南阿蘇の根子岳を前に、今日もその山のどこかでこんこんとわき続けるであろう泉をイメージしながら、響きあう無限のメロディに耳をすますことは、この場所でしかできない素晴らしい体験であった。
歴史と自然、人々の思い。立派なホワイトキューブは少ないけれど、九州にはこの財産がある。博物館や絵本・デザインという隣接する分野のなかでも、現代美術がその存在感を発揮し、人々に受け入れられていく可能性を見る、さわやかな希望が生まれてきた2つの展覧会であった。 |
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左:こどもとともにデザイン展会場風景
右:《泉守りの旅 南阿蘇》 |
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