ACAC(国際芸術センター青森)では、キム・チャンギョム(韓国)による展覧会「シャドウ-影」と、青森市在住の写真家、沼田つよしの展覧会が開催された。前者は、ACACのサポーターグループ「AIRS」が芸術を通したアジア地域との交流を深め、青森市の芸術活動を発信することを目的とし、1名(組)のアーティストを招聘するAIR事業。また、後者は、青森を拠点とした気鋭のアーティストを紹介する展覧会シリーズ「ヴィジョン・オブ・アオモリ」の第4回目である。
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AIRS事業の3回目となる今年は、4月26日に開館する「十和田市現代美術館」との連携により、同美術館に常設作品を展示するチャンギョム氏を招聘。キム・チャンギョムは、1961年韓国生まれ。映像、写真を用いたインスタレーション作品を主に制作している。87年セジョン大学絵画科卒業(韓国)の後、94年カラーラ美術アカデミー(イタリア)、95年デュッセルドルフ美術アカデミー(ドイツ)で学ぶ。日本では2004年「アウト・ザ・ウィンドウ」、国際交流基金フォーラム(東京)での発表を行なっている。今回は代表作《ウォーター・シャドウ(水影)》シリーズからの2作品を展示。暗闇の空間にある2つの石の水鉢。金魚が泳ぎ、木の葉が舞い降り波紋がゆらめく。満たされた水には、満開の桜や美しい紅葉の風景が映し出されている。誰もいないのに、水底をのぞき込む姿や影が横切り、思わず背後を振り返ってしまう。やがて時間がたつと、水鉢はただの石膏の白い箱になっている。現実と虚構が交差し、見るものを不思議な世界に誘う映像作品である。また、青森市と十和田市で撮影された映像による新作を発表。《converse 1》《converse 2》は、匿名の女性と男性の映像が隣合わせに投影されている。日本語と英語でささやく断片的な独白の言葉、ゆっくりとオーバーラップしながら連続する風景が現実と虚実の境界を曖昧にし、音と映像とが折り重なり、追憶とも幻想とも思えるような感覚をもたらしている。 |
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キム・チャンギョム「シャドウ-影」展会場
右=《converse 1》《converse 2》
手前=《ウォーター・シャドウ(水影)》 |
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「沼田つよし展──河口へ」では、沼田自身の憧憬である「河」をとりまくものに目を向けた、シリーズ写真を発表。沼田は1969年青森市生まれ。いくつかのグループ展で発表を行なってきたが、本格的な個展はこの度が初めてとなる。写真を撮る時、「旅行者の目ではなく、足元をしっかりと見据えたものでありたい」と沼田は言う。岩木川沿いを歩きながら出会った風景を5年間撮りためた写真を、モノクローム画像で微細に再現した。薄っすらと霞がかかったかのような濃淡が、フラットな独特の空気感を画面の中に漂わせている。その限りなく情感を抑えた風景の中には孤独もなく、充満もない。それは私たちがおぼろげに心の中に留めた、いつか見た思い出の風景でもある。記録ではない何か。私たちは一人の写真家の目を通して、記憶の中の普遍的世界を求める。
2つの展覧会は、期せずしていずれも映像、写真というメディア表現を行なうアーティストによるものであった。幾度となく繰り返される、現代表現におけるメディアのあり方についての言説をしばし忘れ、風景として眺め、のぞきみる世界に身を委ねることとの喜びを体感することができた。 |
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