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学芸員レポート
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thinking on the borderland
「art talk session vol.1 宮川敬一──都市へ侵入するアーティスト」
福岡/北九州市立美術館 花田伸一
 小倉のオルタナティヴスペース「GALLERY SOAP」が2007年5月でオープン10周年を迎えた。カフェバーを併設したギャラリースペースには若手美術家のみならず、さまざまな客層が出入りして色々と化学反応が起こる場となっている。その10周年記念イヴェントに合わせるかたちで、筆者と谷口幹也氏(美術教育学/九州女子大学)が共同で立ち上げたトークセッションシリーズの初回を開催した。SOAPの主宰であり、アーティストである宮川敬一氏の活動をめぐって、SOAPと関わりの深い毛利嘉孝氏、北九州出身の増田聡氏をまじえてのトークセッション。参加者30人ほどを予想していたところ40人の参加者があり、主催者としてはひとまず安心。
 毛利氏(社会学/東京藝術大学)は、先進国のネオリベラリズムの傾向や大型国際展の動向を挙げながら、政治と文化をめぐっての大きな国際的な動きのなかに、宮川氏およびSOAPの活動を位置づける。美術史における参照例として自然とアンディ・ウォーホルのファクトリーが挙がってくる。
 増田氏(音楽社会学/大阪市立大学)は、書物『都市病理研究──複合都市北九州市を中心に』(近沢敬一・大橋薫 編、川島書店、1978)(なんと不名誉な書物!)を引き合いに出しながら、北九州で育った自らの記憶から、自身が早い時期に「芸術的なもの」への興味を失ない、ポップ・アートの代替物としてロック音楽への関心を育てた経緯を述べる。その一方で、近年「芸術」という概念が「アート」へと取って代わられる傾向に象徴される文化位相の変容が、良くも悪くも北九州という場所の文化状況の変化と連動していることを指摘し、GALLERY SOAPの活動を位置づける。
 その後、宮川氏をまじえてのフリートークでは、各スピーカーが少なからず1970年代のパンク文化をくぐってきたことが白状され、美術家とロックミュージシャンの共通点や、雑誌メディアをめぐる厳しい状況やインターネットの可能性などといった話題が出た。トークの副産物として興味深かったのは、SOAPも含めて、自らのネットワークとマーケットを築こうとする国内外のオルタナティヴな活動全般を、「生協」の活動になぞらえる視点。これは一考の価値があろう。
トーク会場の様子 左から毛利氏、増田氏
左:トーク会場の様子
右:左から毛利氏、増田氏
 ところで、私事ながら私は福岡市に生まれ育ち、1996年から北九州市に移り住んでいるのだが、北九州に住む人々の興味深い点として、自分達の住んでいる町がいかにガラの悪い、ダメな町かという話を「嬉々として」語る、という不思議なメンタリティがある。福岡市ではこのようなことはない。北九州ではいかに文化不毛の土地かを「自慢」されるわけだ。しかしながらそれに便乗して「よそ者」が北九州を悪く言おうものなら一触即発な空気になる。劣等感が優越感になっているのだ(私はこの現象を「ヒゲ(卑下)文化」と呼び親しんでいる)。乱暴な例えだが、この屈折した開き直りは江戸時代の町人の精神性に近いように思う。京都の揺るぎない伝統文化に対して、江戸の町人が新興文化を粋がって「浮き世(憂き世)」を楽しんでみせるのと似た構図ではないか。
 今から200年前の庶民文化である浮世絵版画は幸か不幸か欧米の目利きに見出されて美の殿堂たるミュージアムに入っているが、北九州の1990年代アートシーンは200年後のミュージアムで一体どのように扱われているだろうか。そもそもミュージアムはあるのか?
 本トークセッションは今年度3回開く予定で、第2回目が白川昌生氏、第3回目が森山安英氏を予定。いずれも北九州にゆかりの深い美術家。

会期と内容
●thinking on the borderland「art talk session vol.1 宮川敬一──都市へ侵入するアーティスト」
会 場:GALLERY SOAP
北九州市小倉北区鍛冶町1-8-23/Tel.093-551-5522
日 時:2007年5月27日(日)、14:00-17:00
パネラー:毛利嘉孝(社会学/東京藝術大学)、増田聡(音楽社会学/大阪市立大学)、宮川敬一(美術家/GALLERY SOAP主宰)
司 会:谷口幹也(美術教育学/九州女子大学)+花田伸一(北九州市立美術館)
主 催:thinking on the borderlandプロジェクト

学芸員レポート
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ウマ氏、北九州市立美術館へ行く
 地方の公立美術館におけるごくオーソドックスな活動として、郷土ゆかりの美術家の回顧展シリーズを、これまで「高田一夫『美術・民芸・生活』」(2006年3月)、「小松豊『美術と思考の向こう側』」(2007年3月)と開催した。
 高田一夫(1906-82)は製鉄会社に勤めながら1950年代にプロレタリア版画を制作。棟方志功とも交流があった。1970年代、退職と同時に日本工芸館小石原分館を開設、「民芸」の発掘・普及活動に努めた。
 小松豊(1940- )は1960-70年代の美術館美術・コンクール美術とでも呼ぶべきジャンルの典型的な優等生作家で、微かなユーモアを含むコンセプチュアルな作品を現在も展開している。
 この二人の活動は旧来の展覧会フォーマットでモノ主体に見せることができたが、これ以降の世代の美術家は、モノとしての作品を作り込むよりも、ハプニング、インスタレーション、映像作品、インターネット上の作品、プロジェクトなど、いわばコトとしての表現が多く、それらの活動の持つ魅力をできるだけ損なわずに「ライヴ」に見せていくのに、モノを主体とする展覧会フォーマットでは無理があるので、ひとまず上記のようにトークセッションというかたちでの検証を続けている。
 自然史の分野では、剥製(モノ)として動物標本を残すよりも、DNAを抽出して保存する流れにあると聞く。私の仕事は、作品をモノとしてミュージアムに収集・保存する代わりに、DNAとして継承する目論見といえようか。

●高田一夫「美術・民芸・生活」
会 期:2006年3月4日(土)〜3月29日(水)
●小松豊「美術と思考の向こう側」展
会 期:2007年3月3日(土)〜3月25日(日)

会 場:北九州市立美術館
福岡県北九州市戸畑区西鞘ヶ谷町21-1/Tel.093-882-7777

[はなだ しんいち]
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