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学芸員レポート
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第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ/
アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
金沢/金沢21世紀美術館 鷲田めるろ
 今回のヴェネツィア・ビエンナーレは、「think with the senses / feel with the mind(感覚で考え、頭で感じよ)」をテーマに、初めてのアメリカ人コミッショナーとしてロバート・ストアがキュレーションを行なった。複数の資料/写真/テキストの集積で構成される作品が多かったこと、政治的なテーマを扱う作品が多かったこと、第三世界諸国の作家が多かったことが特徴として挙げられる。作品の傾向に起因する白い仮設壁を多用した展示には、会場となっているアルセナーレの古い特徴的な空間を生かしたダイナミックさはなく、美術館での展示のように単調になりがちであった。また、作品選定にポリティカル・コレクトネスが強く作用している印象を受けた。
『松井茂短歌作品集』カバー
アーナウト・ミック《トレーニング・グラウンド》
2007
photo: Florian Braun
courtesy carlier | gebauer, Berlin and The Project, New York
 一方、国別参加の展示では、オランダ館とメキシコ館が印象に残った。オランダは、「Citizens and Subjects(市民と国民)」というテーマの下、3つの部分から構成されるプロジェクトを企画した。ひとつはジャルディーニのオランダ館でのアーナウト・ミックの新作インスタレーション展示、もうひとつは『市民と国民:オランダの場合』と題される評論集の刊行、そして三つ目が2007年秋のオランダでの討論会の開催である。この形式は、ビエンナーレへの参加を契機として議論の場を開いた点で評価できる。美術と社会との密接な関係を前提に、アーティストや評論家の対談やインタヴューを多く含む書物や討論会を、展示と等価なものとして位置づける姿勢は、今回の企画にも協力しているウィト・デ・ウィス(Witte de With)など、美術を社会的な議論の場と位置づけ継続的に活動してきたアートスペースの精神を反映したものであるが、この形式自体もまた、「市民と国民」というテーマとともに、自国のアーティストの紹介に終始しがちな国別参加の形式に対する批評となっている。
 ミックは、独房あるいは病院を思わせるような設備をオランダ館に設置し、その中で3点のヴィデオ・インスタレーションを展示した。ヴィデオは、いずれも不法入国など移民をテーマとしたもののようだが、背景ははっきりとは明示されない。何か大事故が起こった時のニュース映像のような断片が続くが、見ているうちにそれが訓練の様子やフィクションと混在していることに気づかされる。観客は明確な回答を与えられることなく、問いだけが残り続ける。一見分かりにくいが、じわじわと後から気になって頭から離れなくなる作品である。キュレーターのマリア・ウラヴァヨハ(Maria Hlavajova)及び、彼女がアーティスティク・ディレクターを務めるユトレヒトのBAK、そしてウィト・デ・ウィスなど、オランダのネットワークに今後も注目してゆきたい。
『松井茂短歌作品集』見開き
ラファエル・ロサノ=ヘメル《鼓動の部屋》
2006
 メキシコは、リアルト橋近くのパラッツォ・ソランツォ・ファン・アクセルを使って、ラファエル・ロサノ=ヘメルの展示を行なった。インタラクティヴなメディア・アートだが、インターフェースが機械的ではなく、親しみをもって楽しめた。例えば《鼓動の部屋》と題された作品では、天井からグリッド状にたくさんの裸電球が吊り下げられ、点滅している。係の人に案内され、2本の棒を握ると、一旦すべての電球は真っ暗になり、自分の鼓動が入力される。そして、再び電球が点くと、そのうちのひとつの電球が自分の鼓動に合わせて点滅する。部屋に入ったときから、作品の仕組みについて理解し、自分の入力をして、部屋を出て行くまでの流れがたいへん気持ちよい作品であった。これからヴェネツィアを訪れる方は是非、体験していただきたい。

会期と内容
第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ
期間:2007年6月10日(日)〜11月21日(水)

学芸員レポート
アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
 金沢21世紀美術館のプロジェクト工房は、開館以来、ヤノベケンジや奈良美智+grafがそれぞれ半年間の滞在制作を行なってきた場所だが、今年は、アトリエ・ワンが4月から9月まで「いきいきプロジェクトin金沢」というプロジェクトを行なっている。アトリエ・ワンによる金沢の都市リサーチと、《ファーニ・サイクル》や《スクール・ホイール》のような「マイクロ・パブリック・スペース」の提案を新たに行なうのが主な内容である。都市リサーチの一部の報告として、町家のマップ「アトリエ・ワンと歩く金沢町家・新陳代謝」を8月半ばに刊行予定で、現在、プロジェクト工房ではスタッフが日々編集作業に取り組んでいる。
 マップでは江戸時代に町家が並んでいたエリアを対象に、今日までどのように建物が新陳代謝してきたかを観察し、その変化のパタンを分類している。個性的なネーミングによって都市の事象を顕在化させるのは、「メイド・イン・トーキョー」以来アトリエ・ワンの得意とする手法だが、個別の特殊事例ではなくパタンを捉えている点が今回の特徴である。アトリエ・ワンが「環境圧」と呼ぶ、自動車の普及や防火基準の改定という変化要因に対し、個々の町家がどのような対応を見せているかをタイプ別に分類するやり方は、歴史的な原型をとどめる町家のみを伝統的な文化遺産として評価する考え方に反して、近代以降変化する社会の中で、個々の住人が都市に対してどのような対応をしたかに着目する視点を用意する。この方法論の背景には、建築を担う主体として、行政や企業ではなく、個々の弱い市民こそが今後重要な意味を持つというアトリエ・ワンの考え方がある。その結果、例えば、個々の店舗が深いひさしを持ち、それが連続することでアーケードの役割を果たしている竪町商店街の街並みを評価する価値観が生まれてくる。金沢21世紀美術館の開館前から、多くの建築家や美術関係者が金沢を訪れているが、それを「リーゼント町家」と呼ぶ塚本由晴以外に、竪町商店街を建築的に高く評価する人を私は知らない。是非、マップを手に金沢の街を歩いてみていただきたい。
 一方、「マイクロ・パブリック・スペース」の提案は、金沢で活動するグループへの取材に基づいている。人々の活動や場所に持続してきた「流れ」を捉え、それに形を与えてゆくのが「マイクロ・パブリック・スペース」の考え方であり、そのことは今回の金沢でのプロジェクトでも変わらないが、グループを対象としている点が今回の特徴といえる。これは、今年、ギャラリー間で開催された個展での「人形劇の家」の方法を引き継ぐもので、軟式野球チームや、映画サークル、将棋クラブやウクレレ部などさまざまなグループの活動を取材、分析し、それぞれのグループに対し提案してゆくものである。現在、学生を中心とするスタッフがそれぞれひとつのグループを担当し、提案を行なっている。8月には提案をさらに具体化させ、館内の展示室での展示や、週末に行なっている《スクール・ホイール》を使ったフォーラムを通じてお伝えしてゆきたい。

アトリエ・ワン「いきいきプロジェクトin金沢」
期間:2007年4月1日(日)〜9月17日(月・祝)
会場:金沢21世紀美術館
石川県金沢市広坂1-2-1/Tel.076-220-2800

[わしだ めるろ]
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