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学芸員レポート
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三沢厚彦「ANIMALS+」
北海道/北海道立近代美術館 鎌田享
三沢厚彦「ANIMALS+」
三沢厚彦「ANIMALS+」
会場風景
 北海道北部の中核都市・旭川市にある北海道立旭川美術館で8月23日(木)まで、現代木彫家・三沢厚彦の個展が開催されています。この展覧会は今年4月に神奈川県の平塚市美術館でスタートしたもので、このあと群馬県の高崎市美術館、兵庫県の伊丹市立美術館、広島県のふくやま美術館と、会場を重ねていきます。
 三沢厚彦は、1961年、京都の生まれ。2000年以降、犬や猫など動物をモティーフにした木彫「ANIMALS」シリーズを発表し、高い評価を受けてきました。一方にロダン以降の近代的な彫刻表現を、他方にコンセプチュアルなコンテポラリー・アートを見据える今日のアート・シーンにあって、動物の彫刻、しかも彩色を施した三沢の作品は、立体表現の飛び道具ともいえる印象を与えました。少なくとも私は、三沢の作品に戸惑いと喝采の相反する思いを抱いたものです。
 しかし三沢の作品は、その本質的な意味において「彫刻」以外の何者でもない、と言えます。その作品は実在の動物を再現したものではありません。実際三沢は作品を作るために生きている動物を目の前にして作ることはないと言います。フォルム(形態)やマッス(量塊)やムーヴマン(運動性)を獲得するため、近代彫刻の根幹を成すこれらの造形要素を獲得するために、動物の姿を借りているのだといえます。
 彩色についても同様でしょう。絵画が視覚的な芸術であるのに対して、彫刻は触覚的な芸術だといえます。粘土を自らの手でこね、あるいは木や石を直接手で削って、彫刻は作られていきます。それゆえに、彫刻に触ってみたい、その表面を掌でなでまわし、その塊を抱きかかえてみたいという衝動は、自然な想いといえます(美術館でやるとまず間違いなく怒られますが)。絵画が本質的に理知的なものであるのに対して、彫刻はどこまでも肉体的な造形なのです。三沢作品の彩色は、この触覚性と不可分なものです。楠の丸太をノミで削って形を作り出し、その上に色を重ね、また削るという工程を経て得られたその表面は、木特有のザックリとした、それでいてあたたかなテクスチャー(素材感)を見せます。三沢の彩色は、単に色を塗ったということではなく、このテクスチャーを得るため、彫刻の持つ触覚性を顕在化するために必要欠くべからざるものです。三沢の作品は、木で作った動物ではなく、動物の姿をした「木彫」なのです。
 しかしながらこの展覧会をみて、2002年か2003年を境に、三沢の作品が新たな方向へ動き出しているのではないかと感じました。作品の彩色の方法、というか密度が決定的に替わってきているのです。以前の作品では、色の塗り残しや削り取り、あるいは即興的な線描が頻繁に施されていました。その色のヌキ加減がノミ跡の粗さとあいまって、木ならではの心地好い肌合いを見せていました。しかし近年の作品では、彩色はより緻密により絵画的に変化しています。以前のザックリとした木の素材感は、湿り気と粘り気を含んだようなヌラリとしたマチエール(絵肌)へと置き替わっています。
 そしてもうひとつ、この彩色の変化とシンクロするように、三沢の動物たちの擬人化が進んでいるようにも感じられました。以前から三沢の動物たちは、なにかを物語りそうな豊かな表情と姿態を備えていました。しかし近作では、さらに茶目っ気を含んだような表情を見せるようになります。以前の作品が人間の側がその情動を一方的に動物に投影したものだとすれば、近作では動物たちが自立的な感情を示し出したかのようです。ある意味では、三沢の動物たちのキャラクター化が進んだといえるのかもしれません。
 三沢の作品は、その見た目のインパクトはともかくとして、彫刻表現の本質に依拠したものだと語りました。しかし近年の作品は「木彫」から脱する方向性を見せはじめているように感じます。それがどのようなかたちで実を結ぶのか、今はまだ定かではありません。しかし例えば10年後、三沢は木彫という分野を超えた表現領域で活動を続けているのかもしれません。この個展のタイトルは「ANIMALS+」。この「+」に、企画者や三沢自身がどのような意味を込めたのかはわかりません。しかしこの「+」は案外重い一文字のようです(って、それって単なる深読みでしょうか?)。

会期と内容
●三沢厚彦「ANIMALS+──ちょうこくどうぶつ園、ただいま開園!」
会場:北海道立旭川美術館
北海道旭川市常磐公園内/Tel.0166-25-2577
会期:2006年6月16日(土)〜8月23日(木)

[かまた たかし]
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