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学芸員レポート
青森/日沼禎子|福島/伊藤匡東京/住友文彦豊田/能勢陽子
福田里香・束松陽子による「来森手帖」/青森県 十和田市のアートプロジェクト「アートチャンネルトワダ vol.4」
青森/国際芸術センター青森 日沼禎子
■『来森手帖』――福田里香・束松陽子によるプロジェクト「布芸展」のためにつくられた冊子と出会う
 某日、弘前市に拠点を置くNPO-harappa主催の新春茶会にお邪魔した。中心市街地にある商業ビルの2Fに設けられた事務所はレクチャーやワーク ショップなどを行うフリースペースとして開放され、常日頃からアートに関心 を寄せる人々が集う。蚊帳を吊り下げて赤い毛氈をひいたシンプルで居心地の よい茶室のしつらえにて一服の茶を頂戴し、すっかり身も心も癒されて、さて お暇を・・・・・・・と帰り支度をしていたら、たくさんのフライヤーでひしめくテ ーブルの上に、なんともかわいらしい冊子を発見した。
 『来森手帖』がそれである。白い木綿糸で刺繍が施された麻布の写 真が表紙になっており、A5版・横綴じで、小さなスケッチブックを思わせるよ うな装丁。その刺繍は青森の伝統的な刺し子、いわゆる「こぎん刺し」で、こ の地域の人々にとっては馴染みのある図柄である。しかし、工芸品店で見かけ るようなこぎん刺しとは一味違った風合いに、思わず「はっ」とした。じっと 眺めているとharappaのスタッフの方が、「あ、それ、この間やっていた『布芸展』のために作られたものですよ」と教えてくださった。「布芸展」とは、料理研究家の福田里香と、トートバックの通信販売で人気の「みつばちトート」の店主、束松陽子による「布物プロジェクト」のこと。民藝をテーマに、二人の新しい感性を加えたバッグ類を制作・発表している。2回目となった昨年は、民藝運動の柳宗悦によってその素晴らしさを再発見されたという、こぎん刺しを施した麻布を使ってオリジナルバックを制作。その展覧会が、東京、京都、弘前(青森)とを巡回したのだが、せっかくのチャンスを見逃してしまった私にとって、この冊子を発見できたことは、本当にうれしい出会いだった。
 『来森手帖』は、2004年9月にこぎん刺しの地である弘前市を訪れた 2人の旅行記。「ほんとうは青森を訪れることを来青というのです。けれど弘 前市は背後に白神山地、中心に緑陰深い城址を持つ街。なんとなく、来森と呼 んでみたくなりました」という言葉から旅は始まる。弘前は、城下町としての 職人の息遣いや北国と独特の風土がそこここに残されながら、前川國男の建築 が多く残されていることでも知られ、伝統とモダンとが豊かに存在している 街。前川の処女作であり、ブルーノ・タウトを驚嘆させたという「弘前こぎん研究所」を訪問するなど、民藝運動の源流に触れる場面をメインとしながら、まるで自分たちのご近所さんを散歩しているように、地元で人気のお菓子屋さ んを発見したり工芸店をのぞいたりする2人の足取りが、気負いのない文章と 温かみのある写真とで綴られていく。出会った物や風景、民藝に対する考察、こぎん刺し布バック制作秘話などが丁寧に紹介されている。日々の「生活」に 対する作者の愛情とぬくもりが柔らかに伝わってきて、ページをめくっては自 然と微笑んでしまうのである。雑貨好き、旅好きのみならず、生活を愛するすべての人の心を「こしょこしょ」とくすぐる一冊である。

■アートチャンネルトワダVol.4――青森県十和田市の街づくりプロジェクト「野外芸術文化ゾーン」プレ・イベント
 この時期、北国の都市の多くは野外でのイベントが目白押しであ る。青森県内でも各地域それぞれに趣向を凝らした雪祭りが行なわれている。青森県十和田市において、12月17日(土)、1月14日(土)の2日間にわたり開 催された「アートチャンネルトワダvol.4」(略:ACT)もそのひとつである。官庁街の中心に位置する「桜の広場」を会場に、アーティスト平野治朗が約 1000個の光る風船によるライト・インスタレーションを行ない、雪で覆われた 街をより美しく幻想的な風景に変えた。地域、風土の魅力を再発見することも、地方で行われるアートプロジェクトの特徴であることはいうまでもない。
 現在、青森県十和田市は、アートによる街の再生を目指した「野外 芸術文化ゾーン整備計画」を推進している。国の庁省再編による事務所閉鎖や 合同庁舎新設に伴う出先機関の転居などにより、市の中心となる官庁街通りに空き地が多く見られるようになった。そのため市は、景観改善と地域の活性化を図るため、1野外作品設置、2施設(アートセンター)、3アートイベント(街中展覧会)の3つの柱で事業を構成し、平成17年度から5カ年計画で整備を進めるという。冒頭のACTは、展覧会、ワークショップ、レクチャーなどを通 して幅広い世代に周知することを目的としたプレイベントとして平成14年より 開催されており、これまで藤浩志、折本立身、椿昇、佐藤慰隆(十和田市生まれ)、豊島重之(モレキュラーシアター、八戸市在住)、LOCO、牛島均の他、多彩なアーティストが数多く参加してきた。同市企画調整課担当者は、「はじ めての冬季開催ということもあり、特に動員の面で不安が大きかったが、口コミで評判が広がり、結果は大成功だった。地域の反応もこれまでのACTの中で一番だったと思う。あらためて、アートのもつ影響力を再認識した。」と、地 域へ浸透してきたことへの手応えを語る。
 こうしたソフト面でのイベントを毎年重ねながら、ハード面での整備 も進んでいる。アートセンターの設計は西沢立衛氏が指名コンペ(西沢氏のほ か、アトリエ・ワン、乾久美子、ヨコミゾマコト、藤本壮介)によるプロポーザルで選定された。一部2F建ての大小15もの建物で構成され、それぞれの建物 をガラス張りの渡り廊下が繋ぐことで、屋内外にさまざまな展示スペースが生 じる設計になっている。その他、イベント広場、カフェなどの機能を持つ。今年度の実施設計、平成18〜19年度建設、平成20年度オープン予定とのことである。
 今年7月にオープンす る県立美術館については前回も触れたが、またここで、ひとつの大掛かりな芸 術拠点づくりが本格的にスタートした。青森県全体では、ここ数年、筆者が所 属する国際芸術センター青森も含め(2001年開館)、こうしたハードの整備のみならず、NPOなどの市民活動など、アートを取り巻く状況は非常に活発にみえる。志もあり、それぞれの創意工夫は怠らない。しかし、地域での理解を深め、関心を寄せてもらうために(平たくいえば、広報、入場者数、地域での認 知、評価などetc)、いずれの運営体も非常に苦心している現状。もう耳にタ コができて、ガチガチになってしまうほど聞いている「ハコモノ」という言葉。おそらく十和田市の取り組みにおいても、そうした概念を破るべく担当 者、関係者ともに文化行政としてのあり方を探りながら事業推進の努力を行っていると推察する。5年後、10年後のヴィジョンを持ち、実行し、継続するための、長い闘いが待っているのだ。
会期と内容
●「布芸展」
・東京:spiral market selection vol.100
会期:2005年10月1日(土)〜10月15日(土)
会場:spiral market
   東京都港区南青山5-6-23スパイラル2F TEL. 03-3498-1171
・京都: ギャラリーアンフェール
会期:2005年10月18日(火)〜10月31日(月)
会場:恵文社一乗寺店(京都市左京区一乗寺払殿町10 TEL. 075-711-5916)
・弘前:緑の相談所
会期:2005年11月11日(金)〜11月23日(水)
会場:弘前市緑の相談所(青森県弘前市下白銀町1-1弘前市公園内)
主催:NPO harappa事務局青森県弘前市土手町78ルネス街2F TEL. 0172-31-0195
●『来森手帖』が入手できる場所
みつばちトート8studio (WEBは2/23ころオープン予定。8studio店舗にて販売)
恵文社一乗寺店
ユトレヒト
NPO harappa

●アートチャンネルトワダ Vol.4
会期:2005年12月17日(土)&2006年1月14日(土)
アーティスト:平野治朗
主催:アートチャンネルトワダ実行委員会
助成:(財)むつ小川原地域・文化振興財団
企画協力:ナンジョウアンドアソシエイツ
問い合わせ先:アートチャンネルトワダ実行委員会事務局(十和田市 企画調整課)
Tel. 0176-23-5111
E-mail: towada-kikaku@net.pref.aomori.jp
十和田市 http://www.net.pref.aomori.jp/ ̄towada/
[ひぬま ていこ]
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