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学芸員レポート
福島/伊藤匡|東京/住友文彦豊田/能勢陽子
「岩手県公会堂アートショウ」/「西会津国際芸術村展覧会」
福島/福島県立美術館 伊藤匡
 今回レポートする展覧会は、いずれも会期が短く掲載時には終了しているが、来年も開催されるだろうとの期待を込めて報告したい。
岩手県公会堂と岩手県庁
岩手県公会堂と岩手県庁
石川美奈子作品
石川美奈子作品
 歴史的建造物をアートの発表の場として活用する試みが各地で生まれているが、この夏岩手県盛岡市では、岩手県公会堂で「公会堂アートショウ」が催された。この公会堂は1927(昭和2)年完成のネオ・ゴシック様式で、建築家は佐藤功一。日比谷公会堂や早稲田大学大隈講堂の設計者でもある。老朽化と利用者の減少で一時は解体の話もあったが、市民運動で保存が決まったという。出品作家は、石川美奈子、岡田卓也、片桐宏典、ケイト・トムソン、佐藤一枝、本田健、本田恵美、百瀬寿、森眞一の9人。この建物の歴史や性格を意識した作品が多い。片桐宏典は、十数個のスピーカーを並べた部屋で、玉音放送をアレンジしたテープ音楽を聞かせる。昭和天皇の結婚を記念して建てられたというこの公会堂の出発点を想起させる。石川美奈子は用具室のような小部屋を使い、明治初年に岩手県がまとめた民謡の調査に関する公文書の一節をプラスチック板に書き連ね、貼り交ぜ屏風のように部屋中に並べている。古色蒼然とした公会堂での展示を、ほこりを被った古い公文書を読み解く行為になぞらえているようだ。窓外には現代の公文書書きたちの牙城岩手県庁舎が見えるというコントラストが面白い。写真家森眞一は、公会堂のシンボルである塔を撮影してアクリル板ではさみ、上から水をかけ流す仕掛けで見せている。長い年月風雨に耐えてきた公会堂への賛歌にみえた。作品と塔を同時に見られるように、中庭に面したテラスに展示されていた。本田健は精緻な風景を描く画家だが、今回は絵画ではなくお米を家形に固めた立体作品だった。公会堂建設資金の半分が市民の寄付という事実が、換金作物であり岩手県の主産物である米を作品の素材にするという発想につながっている。作品の展示以外にオークションや出品作家のトーク、コンサートなどイベントが盛り沢山である。ミュージアムショップでは出品作家の作品も販売され、建物の外にはカフェやビア・バーなどの出店もあって、雰囲気を盛り上げていた。公会堂は立地がすばらしい。岩手県庁と合同庁舎に挟まれ、向かい側には警察署や市役所が並ぶ盛岡市の官庁街の真ん中にあるのだ。こういう場所でのお祭りだからこそ、官と民、日常と非日常、規制と自由、歴史と現在などの対立的な観念が、目に見え肌で感じられる気分になる。立看板には「第一回」と書かれていたから、主催者としては来年以降も継続する予定だろう。やがては、このアートショウが盛岡の夏の風物詩になることを期待しながら会場を後にした。
西会津国際芸術村展覧会
西会津国際芸術村展覧会
 福島県会津若松市では、リトアニアから来た若い作家の展覧会が開かれた。昨年秋に来日した彫刻家ケスチュティス・ラナウスカスと画家エグレ・ミチケヴィチュウテの二人は、約一年間福島県西会津町の国際芸術村に滞在し、制作を続けてきた。西会津国際芸術村は、廃校になった中学校の校舎を活用し、海外の若い作家を招いて制作活動をしてもらうという試みだ。冬にはメートル単位の雪が積もる土地での暮らしは楽ではなかっただろうが、二人は地元の人々と交流しながら制作を続けてきた。今回の展覧会は、帰国を前に日本で制作した作品を見てほしいという作家の希望が、周囲の人々の協力で実現したものだ。グラフィック・デザイン出身のエグレは、物語を秘めた幻想的な画風である。なかではコーヒーを絵具に使い、たっぷりした筆致で即興的な造形をみせた作品が印象的だ。ケスチュティスは石、鉄、木、ガラス、和紙などさまざまな素材を用いて、立体作品や家具を展示している。愛知万博のリトアニア館にも出品された『庭』は、直径20cm程の石に鉄の棒を突き刺して並べた作品で、単純だが素朴な力強さが感じられた。西会津国際芸術村には、今秋リトアニアから別の作家が来日し、制作する予定という。今度はどんな作家がどんな作品を見せてくれるか、楽しみである。

会期と内容
●岩手県公会堂アートショウ
会期:2005年8月12日(金)〜8月21日(日)
会場:岩手県公会堂(盛岡市内丸) 
主催:岩手県公会堂アートショウ実行委員会
●第2回西会津国際芸術村作品展
会期:2005年8月19日(金)〜8月23日(火)
会場:会津ブランド館(会津若松市七日町) 
主催:NPO法人西会津国際芸術村

学芸員レポート
指定管理者問題研究会風景
指定管理者問題研究会風景
 7月30日ミュージアムにおける指定管理者の問題を話し合う研究会が、福島県郡山市ふれあい科学館で開かれた。主催は福島県学芸員連絡会議と、日本ミュージアム・マネージメント学会東北支部など。当日は45人の参加者があり、この問題への関心の高さが窺える。
 指定管理者制度の導入は行政サイドで決定され、ミュージアムの現場の意志は考慮されない。内容を理解しないまま制度が導入されると、現場は混乱するだけではなく、本来の業務に重大な支障を来す。それでも制度導入の結果は、ミュージアムが引き受けることになる。ならば現場として必要なことは、指定管理者制度導入の是非論よりも、導入される場合の問題点を予測し、対処法を考えておくことではないかというのが開催の趣旨である。
 そこで、すでに指定管理者制度を導入している館、導入が決定している館の実情を聞いた。来年4月から指定管理者制度に移行する岩手県立博物館長の海妻矩彦さんは、移行手続きが行政側だけで進められ、現場には進捗状況が伝えられないという現状から、指定管理者制度では従来以上に館長のリーダーシップやマネージメント能力が重要になることを指摘された。地元住民によるNPO法人で運営している宮城県岩出山町の感覚ミュージアムの前館長 千葉啓子さんは、NPOによる運営の可能性を認めながらも、設置者である自治体の下請けになりがちなことから、地域のNPO法人が連帯する必要性を訴えられた。すでに市の事業団が指定管理者となって運営を始めている新潟市歴史博物館学芸員の長谷川伸さんは、行政側は指定管理者の評価基準をもっていないので、現状では受託者側の学芸員が評価制度を作らなければならないという矛盾を指摘した。そして指定管理者制度では、地域のアーカイブ(蔵)としての信頼を失うのではないかとの危惧を表明された。さらに意見交換でわかってきたのは、市町村合併の影響である。合併の大前提は「当面現状維持」だが、「当面」が過ぎればミュージアムの統合が予測される。その時に備えて、ミュージアム側の統合の基準や方法論が必要なのではないだろうか。
[いとう きょう]
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