学芸員レポート 06年5月




	福島／伊藤匡｜東京／住友文彦｜福岡／山口洋三

「パメーラ・クルック展」

福島／福島県立美術館　伊藤匡

諸橋近代美術館

ダリの彫刻が並ぶ回廊

展示風景

《ジャポニカ》2001年

　諸橋近代美術館は、福島県の観光地として知られる裏磐梯にある。広い敷地内には小川が流れ、展示室の窓からは磐梯山が間近に眺められる美しい美術館である。サルバドール・ダリの絵画、版画、彫刻などのまとまったコレクションを中心に、ゴッホ、ルノワール、ピカソ、ミロ、エルンスト、キリコら19～20世紀のヨーロッパの巨匠たちの作品を収蔵している。コレクションの展示を主としながら、数年前からシュールリアリズムに関連したテーマで展覧会も企画している。今年は、パメーラ・クルックの個展を開催している。
　クルックは1945年生まれのイギリスの画家。美術大学で染織を専攻し、ロンドンで織物のデザイナーとして活動するとともに装飾品や玩具などの木製品のデザインを手がけ、はじめは余暇に絵を描き始めたという。彼女の絵はロックバンドのキングクリムゾン（なつかしい名前だが、現在も活動を続けている）のCDジャケットにも使われていることで見覚えのある人もいると思う。
　今回の展覧会では、1982年から最新作までの27点が展示されている。「拡張する絵画」というサブタイトルは、画面がカンヴァスを超えて額縁にまで拡がっている状態を指している。路上や映画館、酒場などに集う人々や、窓やドアから見た情景を多少誇張した写実で描いている。彼女自身の幼い頃の思い出、自宅の庭に集まる鳥たちの姿、ロンドンやニューヨーク、そして東京で見た群衆、さらには現代の世界情勢が混在しながら、独特の静的な世界をつくっている。だまし絵や遠近感の強調、影の挿入などの手法が使われているところにシュールリアリズムの画家、とくにデルボー、マグリット、キリコ、バルテュスらを想い起こさせるものがある。またアメリカのジョージ・トゥーカーやジャレッド・フレンチにも似た、何気ない日常に潜む神秘や夢、恐怖を感じさせるところもある。
　日本との関わりは、クルックがパリの画廊で個展を開いたとき、諸橋美術館の創始者が会場を訪れ、個展に出品していたすべての作品を購入したことに始まる。2001年に初めて来日し、以来彼女の絵には日本人も登場している。日本人は一心不乱に漫画や新聞を読む人々と、彼女の目には映ったようだ。

会期と内容
●「拡張する絵画　パメーラ・クルック展」
会期：2006年4月20日(木)～9月18日(月）
会場：諸橋近代美術館　
福島県北塩原村大字桧原字剣ヶ峰1093　TEL. 0241-37-1088
休館日：会期中無休
開館時間：9：30～17：30
観覧料：一般・大学生950（900）円　高校生500（400）円　小・中学生200（150）円
常設展料金含む。（　）内は20名以上の団体料金
関連事業：<解説員によるギャラリートーク>　毎週土・日・祝日の14：00～

[いとう　きょう]



	福島／伊藤匡｜東京／住友文彦｜福岡／山口洋三



ページTOP｜artscapeTOP


					©1996-2007 DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社が運営しています。アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社の登録商標です。 artscape is the registered trademark of DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd. Internet Explorer5.0以上、Netscape4.7以上で快適にご利用いただけます。