Yuasa Jojiによる湯浅譲二展
岩手県公会堂アートショウ2007/アート@つちざわ〈土澤〉advance |
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福島/伊藤匡(福島県立美術館) |
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視覚芸術を紹介するのに適した展覧会という形式で、時間芸術である音楽をどのように見せるか。郡山市立美術館で開かれている作曲家湯浅譲二の展覧会は、この課題に挑戦した実験的な企画である。
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まず、展示の概要を紹介しよう。展覧会は三章で構成されている。第1章〈実験工房とその時代〉では、湯浅の原点となった実験工房のメンバー、北代省三、駒井哲郎、佐藤慶次郎、福島秀子、山口勝弘ら美術家の作品と、実験工房時代の湯浅の初期作品の楽譜、それに記録写真などの資料が展示されている。第2章は〈湯浅音楽と美術〉と題されている。湯浅が関心を寄せた美術家たち、クレー、エルンスト、タンギー、マッタ、ブランクーシ、コールダー、ヴァザルリ、ホックニー、脇田愛二郎らの作品がならぶ。そして第3章〈湯浅譲二の音楽世界〉では、湯浅音楽の設計図ともいうべきグラフィック記譜(五線譜ではない楽譜)が整然と並んでいる。
この構成は、作曲家とのディスカッションを積み上げたうえで、主催者のほうで決めたという。担当の永山多貴子学芸員の話からも、作曲家の世界を美術館でどのように紹介するべきかに苦心したことがうかがえる。
湯浅譲二は、日本の前衛芸術で重要な役割を果たしてきた。また音楽の分野でも、『悪霊島』『お葬式』などの映画やNHK大河ドラマの音楽も担当しているし、子どものための歌も多く作曲している。したがって、展覧会としては「一人の芸術家の人生とその生きた時代」に焦点をあてる方法や、「芸術家の多面性」を強調する構成も考えられただろう。
しかし作曲家自身としては、本領である《オーケストラの時の時》や《始源への眼差》などの作品を中心にしたいという思いが強かったのだろう。そこで美術館では、湯浅作品の演奏者も読むことができないというグラフィック記譜を、あえて展示した。いわば真っ向勝負に出たといえる。結果として、その記譜がならんだ第3章が圧巻だった。観覧者は、方眼紙に線と記号や数字が細かく記された楽譜を見続けることが求められる。眺めていてもなにかがわかるということはないのだが、理知的で精緻な湯浅作品の音響世界が頭の中に広がるような気がしてくる。 |
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とはいえ、音楽を〈見る〉だけでは物足りないから、湯浅音楽に触れる工夫も各所に施されている。展示室では湯浅作品のハイライトが聞けるようにしてある。この展覧会では音楽が主役なので、BGMとして流すことはせず、観覧者は入口でイヤフォンを渡されて、各コーナーに置かれているプレイヤーを自分で操作して聞くようになっている。6曲すべて聞くには約30分が必要だ。また展示室の一角では、湯浅の電子音楽の代表的な作品『ホワイトノイズのためのイコン』の音響空間を体験できるコーナーも設けられている。こちらは約15分。したがって、この展覧会は駆け足、早送りでは見たことにならない。
率直に言って、この展覧会はわかりやすいとはいえない。だが未知の芸術に触れてみたい人や、「難解さ」を好む人、あるいは雑然とした人間社会から離れて「究極」とか「絶対」的な存在にあこがれる人には、面白さを発見できる展覧会だと思う。 |
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