金氏徹平 "Hole & All"/Exhibition as media(メディアとしての展覧会)
西野達展 比治山詣で |
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広島/角奈緒子(広島市現代美術館) |
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休暇を利用して、久しぶりに関西方面へ足を伸ばした。今夏、当館ミュージアム・スタジオにて展覧会を開催した金氏徹平のギャラリーでの個展を見ることも目的のひとつ。つねにウィットの効いた展覧会タイトルを掲げる金氏による今回の展覧会名は"Hole & All"。最初はピンとこなくとも、そのネーミングの絶妙さに気づくまでにそう時間はかからない。
会場をざっと見渡すと、その盛りだくさんな様子に面食らう。今回展示されている作品にも、金氏作品の特徴が遺憾なく発揮されていた。石膏によって生み出されるレイヤー、コーヒーや紅茶を使って作るしみ、プラスチック製品など日常品の積み重ね、雑誌の切り抜きを用いたコラージュなど。さらに今回はこれらの技法の妙のほかに、テーマの妙が観る者を刺激する。展覧会タイトルにある“Hole”つまり「あな」と“All”、「ぜんたい」の関係である。作品の多くは、なんらかの状態で穿たれた「あな」を持つ。それらの「あな」は、現象としては欠損という仕方で存在するのだが、意義としてはそうではない。不思議なことに、作品は「あな」を契機に「ぜんたい」を表わす。そして「あな」の存在が、作品の持つ広がりや堆積に、よりいっそうの深さを付与する。
壁に取り付けられたある作品の「あな」を思わず覗き込んでしまった。「あな」の向こうにあったのは……。 |
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金氏徹平 "Hole & All"、展示風景 Courtesy・Kodama Gallery(Osaka/Tokyo) |
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もうひとつ気になっていた展覧会が「Exhibition as media(メディアとしての展覧会)」。オープン初日、できたてほやほやといった感じの会場を訪問してきた。
この展覧会は、「アートイニシアティヴ・プロジェクト」という名称の創造・鑑賞型事業の一環とのこと。神戸アートビレッジセンター(KAVC)が1996年以来毎年「神戸アートアニュアル」を開催してきたことをご存じの方は多いと思うが、そのアニュアルにかつて参加した作家たちが今度は実行委員となり、展覧会立案から実施までをKAVCと共同するというプロジェクトの第一弾である。このたびの参加作家は、金氏徹平、喜多順子、中西信洋、八木良太、吉田彩子の5人。会場で配布していた資料によると、作家たちが実際にミーティングを重ね、展示作品や展示場所などを決めていったとのこと。各作家は、自分の作品を制作するだけでなく、ほかの作家の作品とも関わりを持ち、コラボレーションも試みている。さらに、会期中には作家が提案したワークショップが用意されており、参加者はワークショップという活動をつうじて作品制作に関与する。美術館においては、イニシアティヴを執ることの少ないアーティストが主体となり、ひとつの展覧会を作品のように作り上げていく、というわけである。
展覧会会場は1階と地下1階の2フロアーで構成されていた。必ずしも作品展示に適しているとはいい難い空間をうまく利用し、各作家がそれぞれの作品にふさわしい展示の仕方を工夫していたように思われた。筆者が訪れたオープン初日には、金氏徹平によるワークショップが開催されていたため金氏本人と、八木良太にも会うことができた。八木はこの展覧会に「回転」する作品をいくつか出品している。例えば、プロジェクターそのものを回転させ、部屋いっぱいにしつらえられた円筒状のスクリーンに、車から見た外の風景を映し出した作品《WARP》。「回転」という動きによって映像の始まりと終わりとがあいまいになり、まるで間隙のような瞬間が姿を現わす。また、氷でレコード盤を作り、プレーヤーで「回転」させて音楽を流すという作品《VINYL》では、喜多順子からのリクエストに応え「ムーンリバー」を制作、コラボを実現していた。八木が、氷のレコードを実際に流してくれた。最初は調子よくメロディーを奏でていた氷のレコードは、すぐに同じ箇所をリピートしはじめ、やがてノイズと変わっていった。そのノイズをBGMに、金氏はワークショップ参加者が制作した「白地図つなぎ」を壁に貼り付ける作業をしていた。
展覧会オープン後にもかかわらず展示作業を続ける二人の作家を眺めながら、なにかと制約の多い美術館という施設(制度)では、実現がなかなか難しい展覧会のあり方なのかもしれないとぼんやり考えていた。このたびの試みは、ある意味、ダイナミックな展覧会のあり方であるということはいえるだろう。しかしながら、どうしてもわからないことがある。筆者だけなのかもしれないが、「アートイニシアティヴ」の実体がまだつかめない。アート(またはアーティスト)がイニシアティヴを執ることで生じる、美術館展覧会との差異とはなんなのだろうか。「美術館」の学芸員として、いろいろ考えさせられる展覧会であった。 |
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左:八木良太《WARP》
右:ギャラリー展示風景(喜多順子、吉田彩子、金氏徹平、八木良太)
提供:神戸アートビレッジセンター |
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