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学芸員レポート
福島/伊藤匡|愛知/能勢陽子大阪/中井康之広島/角奈緒子山口/阿部一直
太田三郎──日々
ケンビ煎餅プロジェクト
福島/伊藤匡(福島県立美術館
太田三郎《Seed Cards》
太田三郎《Seed Cards》
 切手や葉書の形態を使った作品で時間や空間の意味を問い直す太田三郎の展覧会が、出身地の山形美術館で開かれた。近年、アートプロジェクトの活動が目立つ太田だが、この展覧会では、代表的な28のシリーズを網羅して、彼の活動の軌跡を紹介する大規模なものだ。
 三つの展示室で〈戦争〉〈種子/生命〉〈存在〉の三テーマに分けて見やすく展示されていた。あわせて近年のアートプロジェクトを紹介している。
 美術館に入ると、ロビーの真ん中に佇立するロダンの青銅像の周りが、赤いカーペットを敷いたようにみえる。模様替えでもしたのかと思ってみると、これも本展のインスタレーションの一部である。「カーペット」の端から伸びている一本の赤い糸を辿っていくと、糸は階段の側壁を伝って2階展示室脇の、普段は一般公開されない控え室に通じる。そこにバードネット・プロジェクトのインスタレーションが展示されているという仕掛けだった。
 作家や市民など美術館の外部の人たちが参加すると、美術館の展示に通常でない使い方が見られて面白い。美術館の学芸員には展示できる場所について固定観念ができてしまうもので、それを打破して、見慣れた建物に新鮮なイメージを生み出すには有効な方法だ。
山形美術館。バードネットに囲まれたロダン 太田三郎《バードネット・プロジェクト》
左:バードネットに囲まれたロダン
右:太田三郎《バードネット・プロジェクト》
 図録には、作家自身による作品解説があり、制作の動機や意図がよくわかる。また大谷省吾氏の軽妙な「太田三郎展:鑑賞上のご注意」と、岡部信幸氏のていねいな作品論が掲載されていて参考になる。ただし、大谷氏の指摘する注意のとおり、切手や消印という身近なものの背後にあるものに想いをめぐらし、作品解説はあとから読むべきだろう。
 なお、来春には出身地の鶴岡市でも太田三郎の展覧会が開かれる。鶴岡展は「海」に関わる作品と、鶴岡で開催したワークショップの成果を中心にした展示になるようで、そちらにも期待したい。

●太田三郎展──日々
会期:2008年11月1日(土)〜11月30日(日)
会場:山形美術館
山形市大手町1-63/Tel.023-622-3090

●太田三郎 展──集めることがアートになる!(仮称)
会期:2009年4月25日(土)〜5月25日(月)
会場:鶴岡アートフォーラム
鶴岡市馬場町13-3/Tel.0235-29-0260

学芸員レポート
 「ケンビ煎餅プロジェクト」が現在進行中だ。「ケンビ」というのは県美、つまり福島県立美術館のことらしい。
 土谷亨と車田智志乃の夫婦によるアーティスト・ユニットKOSUGE1-16と、福島県石川町の石川小学校の6年生が、自分たちで育て収穫した米を使って、煎餅をつくるというプロジェクトである。
 KOSUGE1-16は、巨大なサッカーゲームや紙相撲のプロジェクトが知られている。現在、水戸芸術館の「日常の喜び」展と金沢21世紀美術館の「金沢アートプラットホーム2008」展にも出品中で、この日も金沢から夜の高速道を飛ばして石川町に到着した。
 「くるまだー、お湯」「あいよー」KOSUGE1-16の絶妙のやりとりに乗せられたのか、緊張気味だった小学生たちもしだいに熱中してくる。難しかったのは、炊飯器で炊いたご飯をすり鉢で粒がなくなるまで潰す作業。通常煎餅は米を粉にしてつくる。今回もはじめは石臼で粉にすることも考えたそうだが、米を粉に擂る石臼が入手できず、ご飯を潰す方法に切り替えたそうだ。うるち米でありながら粘りが強く、なかなか潰しきれない。ボランティアの福島大学生や見学のわれわれまで総がかり苦闘の末、ようやく糊状の煎餅の原型ができあがった。この後一週間学校内で天日干しをして、最後に焼くという困難な作業が待ちかまえている。
 できあがった煎餅は、半分は自分たちで食べ、後の半分は来年1月10日から始まる「福島の新世代2009」展で、KOSUGE1-16の出品作品として制作過程の記録映像や煎餅屋の屋台とともに展示室に列ぶ予定である。
KOSUGE1-16と石川小学校6年生による煎餅づくり KOSUGE1-16と石川小学校6年生による煎餅づくり
[いとう きょう]
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