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「√roots─わたしの中の日本的なるもの─」法然院講堂 |
前回のレポートの続編のようになるかもしれないが、6月後半、京都・鹿ヶ谷の法然院で開かれた、作家たちの自主企画によるグループ展「√roots─わたしの中の日本的なるもの─」は、展覧会のテーマ、そのテーマを巡る対話の中から生まれる制作行為、さらには参加作家を第三者的な視線でかかわるような立場の人間を置く、といった理想主義的ともとれるような周到な準備が為された企画であった。
そこに参加した作家の一人から、1年ほど前からそのようなイベントを企画してミーティングを重ねているということを聞いていたので、正直な話、随分と身構えてその地に足を踏み入れたことは間違いない。人里に隣接しているとはいえ、静寂さが保たれた別世界・聖地であることは確かであり、このような場所で自らの出自を問うような展覧会を行なうこと自体が極めて危険だと感じたのが、第一印象である。この空間であるならば、何を置いても、というのは言が過ぎるかもしれないが、日本的なコードを内包した造形作品であるならば、それで表現として成立しているように見えてしまうかもしれないからである。もちろん、参加した3作家と1グループそして一人のコーディネーターの間では、会合の度にそのような点まで話し合いが為されたことと思う。展示会場は、講堂と南書院の2カ所が用いられ、庭園の中央に位置する講堂の広い空間では全員のコラボレーションで構成され、もう一方の南書院では、玄関から3つの和室が繋がっている構造で、庭なども用いながらそれぞれの作家が和やかに有機的に連関しているような構成となっていた。
一見したところ、それぞれの作家の取り組みが明解に読み取ることのできる南書院における構成の方が、表現として成立しているように見えるが、全体の雰囲気や世界観というものが、その舞台となった建物自体の持っている内容を越えたか、という視点でみると厳しいように感じられた。逆に、初見では一見無秩序な構成に見えた講堂における構成の方が、シンボル的な展示ではあったが、基本的には左右対称のシンメトリー構造を基本としながら、微妙な配置によって僅かにアシンメトリーを施し、そのようなマトリックスが、舞台となった法然院の伽藍配置を批判的に検証し、それぞれの表現を自立させているように感じられた。
ここでは、個々の作家の内容に触れてこなかったが、参加した作家、手塚愛子、船井美佐、パラモデル、呉夏枝は、それぞれが持っている造形言語を充分に活かしていたことは言うまでもない。ただ、彼らが、この法然院という場所を選択して、一年余の討議を重ねてきた、という事実に対して礼を払い、その展示全体に対する所感を述べた。
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廣瀬智央《オレンジの樹の家》 Casa del albero di arancia
(オレンジの樹の家) ヴァンジ彫刻庭園美術館
Photo: Tranlogue Inc.
Cooperation: Cooperation:Asahi Kasei Chemicals Corporation, Color
Kinetics Japan Inc.,
Takasago International Corporation, Tranlogue Inc.
Courtesy Museo Vangi, Tomio Koyama Gallery
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前回から美術館の外における構成展に眼を転じているのだが、関西から少し遠くなるが、三島駅からバスで30分ほど北上した地域にあるヴァンジ彫刻庭園美術館で開催されていた「空にふれるまでのあいだ」というタイトルによる廣瀬智央、小林正人、小粥丈晴、3作家による展覧会を観る機会があった。同館はいわゆる個人美術館ではあるのだが、1年ほど前から一部の空間を用いて、若手作家の小企画展を開催している。前回の杉戸洋展を偶然に観る機会を持ち、そのあり方に興味を持ち、今回は上記の3人展のためにその場所を訪れた。
その展覧会のための場所は、決して充分な展示空間があるわけではないのだが、館名にもあるように美術館が設置されている場所は庭園であるため、作品を見るまでのアプローチが整い、いわゆる均質空間で作品を鑑賞する行為とは異なる体験をすることになるのである。実際、その展示空間に入った最初の部屋には、小粥のテーブル状の作品が設置されていたのだが、外光を遮られた空間の中、僅かに開けられたカーテンから豊かな緑の風景を借景に作品として取り入れていた。階下のコンクリート壁で覆われた小空間には小林の小作品がバランス良く並べられてあるのだが、そのバランスが大きさを誇るような展示とはまた異なった風景を醸し出すのである。それは何よりも外光を上手く取り入れた妙でもあるだろう。一人大作を試みていたのが廣瀬である。巨大なアクリルの二つの箱の床にオレンジを敷き詰めてオレンジとブルーの光に交互に覆われる《オレンジの樹の家》である。その作品は外光が入る場所に設置されており、オレンジとブルーの光は、その外光を反映するような意味合いを持つものであり、また普遍的な意味性に繋がるものなのであろう。この作品を本質的に愉しむためには少なくとも半日はそこで過ごすことが必要となるかもしれない。
話のついでであるが、私の勤務する国立国際美術館でも今村源、須田悦弘、伊藤存という中堅と若手の作家3人による「三つの個展」を開いている。これはタイトルにもあるようにコラボレーションではなく3人の作家の個展形式の展示としている。とはいえ3人の作家の緩やかな共通項を鑑賞者に感じてもらえれば本意であるのだが、この緩やかな遊び心を感じ取った好事家によって7月某日、阪神間の某所にて、3作家を囲むようなかたちでお茶会が開かれた。待合いに並べられたそれぞれの作品、伊藤さんデザインの座布団や、須田さんによる雑草、今村さんの不思議な机など、茶席の会話もとても楽しいものだった。オフ・ミュージアムって、日本人にとっては意味がない言葉というか、本来日本ではミュージアム・イン・ライフだったんだよね、という感じでした。 |