Psycho Buildings: Artists Take on Architecture
モニカ・ナドールによる旧保見交流館への壁面装飾 |
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愛知/能勢陽子(豊田市美術館) |
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現在、7月5日に始まるブラジル現代美術展、「Blooming:ブラジル──日本 きみがいるところ」の準備のため慌しくしており、近郊の美術館にも出掛けられないような状態が続いている。そこで、当館所蔵のクリムトをテート・リヴァプールに貸し出しした帰りに、ロンドン在住もしくは展覧会のため渡英していた出品作家と打ち合わせをしに2日ほどロンドンを訪れたので、そこで観た展覧会を紹介させていただくことにする。
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ヘイワード・ギャラリーの「サイコ・ビルディング」展では、住居のような構造や、建築的な環境に関わる10人の作家たちの新作が、美術館の屋上やバックスペースも含めて大胆に展示されていた。それぞれの作品に足を踏み入れると、香り、色、光、自身の身体の動きによりさまざまに知覚を刺激され、家や環境についての物質的であり精神的な多様な層が浮かび上がってくる。 最初に出会うのがエルネスト・ネトの作品である。いつもの軽やかでカラフルな作品とは異なり、巨大なグレーの物体がぬっとそこにある。中に入ると、黒い物体の入った袋がぶら下がっており、近づくと強烈な香りがするが、それらはコーヒー、シナモン、胡椒の粉末であった。その強い香りは、黒くてずんぐりした作品の形体と同様、身体にずしんと来る重みを与える。《Life fog frog - Fog frog》は、そこにうずくまった巨大黒カエルが、周囲に立ち込める濃く深い霧と融合して、私たちの身体を包み、そして沈潜していくように、生の得体の知れない不可思議さをユーモラスに感得させる。 ゼラティンの作品の前には、なかなか進まない長い列ができている。人垣の隙間から覗くと、屋上に池が出現しており、粗末なボートが数台浮かんでいる。池の向こうには大観覧車ロンドン・アイがそびえ、ボートに乗った人々はのどかな楽しい時を過ごしているようである。ゼラティンは、「普通になにも問題なく進んでいるということ;それは思い切った舵取りと原動力の変化がないということである」という。コンクリートの建物に寄生するように、空高く宙吊りにされたのどかな風景は、ある種の不均衡な違和感を生み出し、彼ら流のアイロニーが込められている。
建物の屋上に、フラーのバイオドームを思わせるような透明な球体が浮かんでいる。トマス・サラセーノの《Air-Port-City》である。内部は二層に分かれていて、下から中空か雲の上で人々が休んだり、くつろいだりしているような様子が伺える。《Air-Port-City》は、どこへでも持ち運び出来、環境の変化にも耐えうる、まさに自由な移動の象徴である、──「空飛ぶ空港」である。
展覧会会場はさながら自由な遊び場のようで、思考するより速く鑑賞者の直感に訴えかけてくる。それはもともとアートが持っている大切な機能であり、それを契機として私たちは、自らと環境に関わるより深遠で新たな次元に、自然に目を向けることができるのである。 |
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左:エルネスト・ネト《Life fog frog - Fog frog》
右:トマス・サラセーノ《Air-Port-City》 |
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