現在、広島市現代美術館では、「柳宗理──手から生まれるかたち」展を開催中である。1915年生まれ、現在92歳の柳宗理は、戦後間もない1946年にいち早く工業デザインの研究に着手し、1950年には、柳インダストリアルデザイン研究所(現、財団法人柳工業デザイン研究会)を開設した、日本におけるインダストリアル・デザインのパイオニア的存在で、まさに時代を先取りした人物である。父、宗悦の民藝運動に少なからず影響を受けた宗理は、「アノニマス・デザイン」を目指し、用の美(機能美)とフォルムの美しさを兼ね備えたデザインを続けてきた。このたびの展覧会は、柳宗理がこれまでに手がけたデザインを概観できる内容となっている。
展覧会準備にあたり、柳工業デザイン研究会を何度か訪問する機会を得た。研究会は、建築家、前川國男設計による建物の地下1階に入っている。地階ゆえ昼間でも薄暗く、決して広いとは言えない天井も低いオフィスは、これまで柳宗理が手がけてきたデザインの書類や資料、石膏模型や模型をつくるための工具、書籍や蒐集品であふれている。時代に逆行するようにアナログな光景が広がる室内は、なぜか郷愁にかられる空間であった。柳宗理のデザインに直結するといっても過言ではないこの研究会の雰囲気を伝えるべく、展覧会では、会場の一角に研究会の再現を試みた。楽しんでいただければ幸いである。
|
さて、柳宗理のデザイン工程においてとりわけ特徴的なのは、すべてのデザインを模型造りから始めることと言えるだろう。バタフライ・チェアやシェルチェアも最初は、紙を切り抜いてつくられた、ごく簡単な手のひらサイズの模型である。椅子だけでなく、鍋やカトラリーなどのキッチン・ツールもまずは模型から。使い心地や持ちやすさなどを考慮し、模型で微妙な足し引きを繰り返すため、模型作成には、削ることも付け足すことも容易な石膏が好んで使われてきた。模型の段階で試行錯誤を繰り返し、これぞというかたちに行き着いてようやく、模型から数値をとり、図面を引く作業にいたるのだそうだ。柳宗理のデザイン工程では、図面を引くのは最後の仕事。手で使うものを手からつくらないでどうする、という柳宗理の考えならではないだろうか。本展では、柳宗理のデザインはもちろん、彼のものづくりに対する姿勢をも窺い知ることができる。
また、展示されている作品に触れることが許されないことの多い美術館で、使う(触れる)ことが前提のプロダクト・デザインの展覧会を開催する、という矛盾を解消すべく、デザインをトータルに体験できるスペースを用意した。graf media gm監修のワークショップ・スペース「OPEN LABO さわる、つくる、つかう『かたちの実験室』」である。ここでは、バタフライ・スツールに座ることはもちろん、解体してみることができ、さらには各種鍋やレードルの使いやすさを実験しながら体験することもできる。週末には、実際に手を動かして「かたち」をつくるワークショップも開催される。デザインのかたちを見るだけでなく、自分の身体で実際に触れてみて、「デザイン」とはなにかということを、改めて問うてみてはいかがだろうか。 |
|
|
|
|
左:ステンレス・片手鍋 ハンドルのモデルと図面
右:OPEN LABO さわる、つくる、つかう「かたちの実験室」会場 |
|
|