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北の創造者たち展──虚実皮膜
札幌/芸術の森美術館 吉崎元章
私が勤める美術館の展覧会を紹介させてもらいたい。
北の創造者たち展は北海道在住の美術家を紹介するシリーズで、1987年からほぼ隔年で開催し9回目となるものである。今回は、江戸時代中期の劇作者・近松門左衛門の芸術観「虚実皮膜」をサブタイトルに、6人の作家の作品を展示している。
展示順に簡単に紹介したい。
女性のセクシャリティを自らの身体を介入させながら探求する
鈴木涼子
は、母と娘の顔写真をコンピュータで重ね合わせた大判のプリントを9枚展示。9組の母娘の二重写しでできあがった違和感のない新たな顔に、確かな血のつながりとともに、現代のさまざまな親子関係を露見させている。
森で採集した自然物を素材としたインスタレーションを展開している
坂巻正美
は、草木灰で表面を被ったガラス板を整然と配置し、そこに虹色の光を照射、壁には蜂蜜が垂れる麻布を並べる。規則正しく配置され記号化された自然物が、現代社会において知覚しづらくなった、自然の深遠な気配を伝える。
上遠野敏
は、地獄絵や恐山などで見た民間信仰に、今回の作品の想を得た。細長い展示空間を巧みに利用し、絵巻物が展開するように異時同図的に構成している。多くの供物を前にした六体の地蔵像にはじまり、大量の古着やゴムが塗られたヌード写真、そして毛皮に埋め尽くされた空間が続く。日本の伝統や慣習に根差しながら、人間の欲望と罪、罰と救いなどが前世、現世、来世を横断しながら繰り広げている。
伊藤隆介
の作品は、30歳代の都会で暮らす独身女性を主人公に、彼女の思い出や理想、そして現在を、8ミリフィルムやミニチュア模型を写す映像などで、部屋の再現と混在しながら浮かび上がらせる。
藤木正則
は、会場内に待合所を制作。壁には彼が住む稚内と札幌の間の車窓の風景の映像が流れている。映像を見るためにベンチに腰掛けた人は待合所の点景として作品に取り込まれ、展示室に現れた異空間のなかで、鑑賞する人とされる側が交錯する世界をつくり出している。
夢のなかに現れた像や世界を具現化する仕事を続ける
坂東史樹
は、展示室の一角に水を張り、まるで深い湖の底に雪のなかの古ぼけた山荘が沈んでいるような静かで幻想的な世界を出現させた。
虚構と事実との境界は曖昧であるが、その狭間にこそ事物の本質や真実があるとする近松門左衛門の考えは、ヴァーチャルなものが氾濫する現代においてますますその意味を重くしているように感じられる。意欲的な作品が揃った今回の展覧会を通して、虚実の間に潜むものを探ってもらいたい。
写真は上から
鈴木涼子〈Mama Doll〉シリーズ
坂巻正美《けはいをきくこと;蒼穹をうつす》
上遠野敏《六つのうたかたの夢》
伊藤隆介《薄野心中》
藤木正則《Domestic Express - from Wakkanai to Sapporo, from Sapporo to Wakkanai》
坂東史樹の作品
会期と内容
●北の創造者たち展──虚実皮膜
会期:2003年10月26日(日)〜2004年1月18日(日)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、一部火曜日(11/25、1/13)、年末年始(12/29-1/3)
開館時間:9:45〜17:00
会場:
芸術の森美術館
札幌市南区芸術の森2丁目75 tel. 011-591-0090
入場料:一般600円、高大生300円、小中生120円
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学芸員レポート
先日、どうしても観たい展覧会とそれに関連した興味深いシンポジウムが青森県の七戸町であるというので、北海道立近代美術館の学芸員とともに行ってきた。前後の日に札幌での仕事が入っていたため行きも帰りも夜行列車、それも寝台が満席のため普通座席での車中連泊となりさすがに応えたが、無理をしてでも行った甲斐がある充実した内容であった。その展覧会とは「成田亨が残したもの」であり、シンポジウムは「怪獣、特撮、そして美術〜成田芸術の理解のために〜」と題し藤川桂介(作家・脚本家)、椹木野衣(美術評論家)、樋口真嗣(特技監督)を迎えてのものである。
成田亨(1929―2002)は、ウルトラマンや怪獣のデザインを手がけた知る人ぞ知る人物。カネゴン、ガラモン、バルタン星人、レッドキングをはじめ、怪獣と言ってその姿形と名前がすぐに頭に浮かぶものの多くが彼のデザインによるものである。その多くのデザイン画を数年前に青森県が収蔵。それらを主軸に美術館開館に向けたプレイベントとして、成田芸術の全貌に迫る初の回顧展が開催されたのである。また、彼は武蔵野美術大学で清水多嘉示に彫刻を学び、新制作展で新作家賞を受賞するなど彫刻家としても活動しており、今回、怪獣造形にも通じる力強い彫刻2点も展示されている。彼が生み出したヒーローや怪獣が今なお愛され続けているのは、そのようなしっかりとした造形的基礎と哲学がベースにあることも大きく関係しているのだろう。彼のデザイン画はすでに「日本ゼロ年」(水戸芸術館、1999-2000年)などの展覧会で見たことがあったが、高山良策による着ぐるみと山田卓司のジオラマとともに展示された会場で、その発想の豊かさと造形の確かさに対する認識を新たにした。
また、成田怪獣を見て育った世代のアーティスト会田誠、伊藤隆介、角孝政らの作品を通して、成田芸術が現在に与えている影響を考えようとする試みもおもしろい。会田誠はワークショップ、共同制作により巨大な野焼きによる《じょうもんしきかいじゅうのうんこ》を制作。伊藤隆介は、古い商家「山勇」に、ミニチュアによる特撮技術を応用した作品を展示。角孝政は巨大な《クマムシ》などを出品している。
売店では、会場限定で成田亨が晩年書き記した原稿を遺志を継いで最近出版した『真実』が販売されていた。以前から聞き及んでいたこととはいえ、その本のなかで語られている円谷プロとの確執は考えさせられるものがある。しかし、それらを越えて、成田亨の生み出したヒーローや怪獣の造形は、多くの人の心に深く刻まれており、日本の文化の中で無視することができない強い影響を与え続けていることは確かなことである。そうしたことを強く再認識させる展覧会であり、シンポジウムであった。
実は、午前5時30分に夜行列車が到着した青森駅で市立小樽美術館の学芸員とも遭遇した。目的は同じである。北海道にはなぜかこの種のものに興味をもつ学芸員が多いのである。
会期と内容
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アートツアー・イン青森「成田亨が残したもの」
会期:2003年9月13日(土)〜10月13日(日)
会場:七戸町立鷹山宇一記念美術館、山勇 青森県上北郡七戸町字荒熊内67-94
問合せ先:七戸町立鷹山宇一記念美術館 tel:0176-62-5858
[よしざき もとあき]
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