ICCを使い倒せ──住友文彦
館全体がワークショップ「日本科学未来館」──内田まほろ
美術館利用の新しい動向 Withミュージアムの楽しみ方──岡部 あおみ
ICCを使い倒せ
住友文彦
多くの美術館やアートセンターは、国内外を問わず90年代の終わりから大きな変革を実施しています。西欧中心主義や伝統的な近代美術史といった価値観の見直し、ローカルなものへの再注目など、その理由はさまざまですが、それぞれの社会における位置づけを模索し直している姿が目立ちます。日本もその点では同様ですが、多少それが極端に「分かりやすさ」や「動員数」などの評価だけに反映されていることはもっと危惧され、声を上げていくべきでしょう。しかし、そのいっぽうで多くの美術館や学芸員が自分たちの館や企画についてきちんと説明してこなかったのも事実だと思います。とくに現代美術となるといまだ一般的には主流じゃない価値とつきあう、基本的にはマイナーな分野で仕事しているのは間違いないですし、謙虚に、少しでも多くの人に来てもほしい、見てほしい、という努力はすべきだと思います。
じつは、私がキュレーターとして
ICC
で働きだしたのはこの3月からです。いまだ利用者という外部からの視点を持っているので、ここをどうやって利用するか、について書くには都合がいいかもしれません。ICCは新宿からひと駅の初台を降りるとすぐのビルにありますし、新宿西口から歩いても新宿公園や甲州街道沿いを通って来られます。割と来やすいところにあるのですが、なかなか関心のある展示のときしか行かない、もしくはそもそも小難しそうで行かない、という人も多いのではないでしょうか。でも気軽に寄ったり、参加できる方法もあるんです。
作品の展示以外も満喫する方法
ICCは、科学技術と芸術をテーマとしたアートセンターとして1997年に施設ができました。それまでは、展示スペースを持たずに、展覧会やイベントの活動や機関誌「InterCommunication」を発行してきました。特徴は、こうした展示以外の活動が充実していることではないでしょうか。これが読まれる頃にはちょうど終わっていますが、ニュースクール9「リアクティヴ/クリエイティヴ」というイベントも、ワークショップや映像コレクションの上映、シンポジウムやもっと気軽なラウンジトーク、パフォーマンスなどの複合イベントです。
「tomato+クワクボリョウタ」ワークショップ模様
基本的にテクノロジーはどこか取っつきづらいと感じている人が多いと思いますが、こうしたワークショップやトークからはいっていくのもいいのではないかと思います。普段からパソコンやビデオは使っている、といっても、それ以上表現手段や知識としてどういうことが世の中にあるのか、ちょっと好奇心を広げようと思ってもなかなか触れられる機会はないと思いますが、そういった関心がわいてきたらこうした、たいがいは無料のイベントに足を運んでもらうのがいいのではないでしょうか。
トークイベントやライブなどは展覧会の関連でもけっこう頻繁に企画されているのですが、単発のイベントはなかなかチェックするのが難しいと思います。こういうイベントは突然開催が決まることもありますし。そういうときに便利なのが、
ICCNEWS Online
の登録をしておくことです。そうするとイベントがあるときにはメールが送られてくるので便利です。今後もこうしたイベントは増やしていきたいと思っています。まだまだ利用頻度が低いと思われるのは、大容量回線を利用している人がだいぶ増えたいまこそ使える、イベントのストリーミング放送です。遠隔地の方や、何かしながら派の人には重宝するサービスですので、ぜひご利用ください。
あと、意外と知られていないのが4Fロビーのカフェです。コーヒーは250円ですし、ビールや沖縄産グアバジュースなんていう夏向きのドリンクもあります。年間2000円のメンバーシップに入っておくと、案内や優先予約も送られてきて、何度でも入場できるだけでなく、カフェも割引になります。
ロビーのソファは座り心地がいいので、東京オペラシティアートギャラリーやワコウ・ワークス・オブ・アート、ケンジ・タキギャラリーなどをめぐるときはここで待ち合わせをするのが正解です。それと、最上階(6F)には小さな図書館もありますし、著名なアーティストや科学者のインタビューをおさめた端末も自由に見られるのもあまり知られていない気がします。
メディアアートについて語ろう!
おもに展示している作品はメディアアートと呼ばれるものが多いわけですが、どうも分かりづらいとか、そういう意見を聞くことも少なくありません。まだ技術的に未熟なシステムを利用したり、先取り感だけが突出してしまう作品も確かにあると思いますが、多くの場合はお客さんが操作や参加をする必要があるために、面白さを感得しきれなかったりするのではないでしょうか。また、見るだけの作品でも、見慣れない技術が使われていれば、どういう仕組みなのか理解できずにただのブラックボックスのようにしか受け止められないこともあるでしょう。でも、そんなとっつきづらい感がどうしてもぬぐえない人が来場しても、「ナビゲーター」と呼んでいるスタッフがいつもそばにいます。彼/彼女らは、けっしてエキスパートではないので一方的に説明することもなく、一般の人と同じ目線で説明をしてくれるはずです。なんとなく付きつ離れつの距離感を保っているので、もし必要があったらどんどん聞いてもらうのがいいと思います。
また、些末なことでありながらやはり重要なのは、国内外の美術館などでも映像やコンピュータを使った作品の展示を見ることは増えていると思いますが、どうしてもメンテナンスやスペックが不足していることが多いなかで、ICCは経験のある技術スタッフが作品制作をサポートしてることも大きな魅力です。展示室もケーブル類や機材が設置しやすいように配慮されています。なかなか表に見えてこないところですが。
メディアアートはけっして特殊な分野ではなく、私たちが日常的に接しているテクノロジーと密接に関わるはずですから、むしろ神話や歴史を参照したり、形式主義的なアートよりも身近なものだと考えることもできると思います。複製技術に代表されるテクノロジーは、間違いなく20世紀のアートに対して決定的な影響を及ぼしたわけですし、これからの社会や私たちの知覚について考えるうえで重要になってくるでしょう。ICCはけっして大きな施設ではないので、コレクションなどで権威的に作品を示すような場であるよりも、いろいろな人が同時代について体験し、考え、語りあうようになっていくための交錯点でありたいと思っています。8月20日から「
リアクティヴィティ──反応=再生する可能性
」という、身近に浸透しているテクノロジーを使って、より多くの人が自分で表現し、それを伝えることや、見知らぬ人や過去と出会うことが可能になってきたことをテーマにした展覧会を行ないます。DJカルチャーやゲーム、デザインなどの分野には顕著な、アカデミックなトレーニングや知識がなくてもいろいろな表現ができる楽しさを味わっていただけたら、と思っています。ぜひ、お越しを待ちしております!
「リアクティヴィティ──反応=再生する可能性」出品作品
上: exonemo《FragMental Storm/FragMental Storm 02》(2000/2002)
Computer Software
左下:エド・スターン《Fort Paladin: America's Army》(2003)
*参考作品
右下:マチュー・ブリアン《SYS*011. Mie>AbE/SoS SYS*010-2002》(2002)
[ すみとも ふみひこ ]
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