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ICCを使い倒せ──住友文彦
館全体がワークショップ「日本科学未来館」──内田まほろ
美術館利用の新しい動向 Withミュージアムの楽しみ方──岡部 あおみ
館全体がワークショップ「日本科学未来館」
内田まほろ
 最近、美術館や博物館の特別イベントや、企画展の関連イベントとして、シンポジウム、講演会、レクチャーなどとあわせて「ワークショップ」という形態が定着している。特に夏休みには「親子で」という形容詞とともに、各館一緒に時間を費やしモノを作ったり考えたりするイベントが多く企画されている。
 ワークショップとひとことでいっても、自己啓発系から、モノ作り、身体表現などさまざまで、その定義を簡単にすることはいえないが、その場所が展示を主とした館である場合のワークショップは、「そこで展示紹介したい作品、トピックに関するより深い理解を、場所と時間を共有し、展示ではなく専門的な人との相互的なやりとりを介して、物理的、あるいは精神的に得ること」としよう。この定義は、アーティストと作品を作ったり、シャボン玉や飛行機を作ったり、遺跡を掘りに行ったりなど、美術館、博物館、科学館、と呼び方は違うが総称してミュージアムという場が主催するワークショップと名がついたものを大抵カバーするともの思う。
 科学を文化にというコンセプトを持ち、最先端の科学技術を紹介する科学館として3年前にオープンした日本科学未来館は、積極的にアートやデザインの分野とコラボレーションを行なう方針で、展示や企画展を制作し、科学を伝える方法として、表現としての「美」にこだわり、その力そのものを科学の一端であるという解釈をしている科学館である。しかし、紹介していく内容は科学技術と関係した「知」を扱う場であることに変わりはなく、したがって当館が行なうワークショップは作品を作るわけでもなく、踊ったりするものでもない。それは、展示以外の方法で、科学技術の内容や科学する心を伝えるためという位置づけである。

展示物を用いた作品解説
 未来館は、館全体がワークショップ形式といっても過言ではない。それは、個人個人の感性によって解釈が違う美術館や歴史的な陳列の中で理解を促す博物館とは違い、新しい考え方や、理論、技術を「理解」して帰ってもらわなくてはならない科学という「アイテム」が大きな理由となっている。展示会場には、インタープリターと呼ばれる科学的なバックグラウンドを持った解説員がいる。彼等は、展示物を利用しながら(きっかけにする場合もあれば、解説パネルの代わりにすること、実験道具にすることなどさまざまだが)、来館者の興味やレベルに合わせて、それぞれの展示内容を解説していく。
 
「疾走するファイバー」展
「疾走するファイバー」展 会場風景
各フロアには実験コーナーもあり、超伝導実験やロボットのデモンストレーションなどが行なわれる。美術館で想像していただくとそのすごさがおわかりいただけるかもしれないが、学芸員レベルの専門家が、常設展示空間に30-40人常駐しているわけである。また、これに加えてより来館者の視点にたって来館対応をするボランティアスタッフが同人数程度いるので、空いている日には、マンツーマンの家庭教師のようなやりとりが行われるわけだ。
 この夏は、オリンピックの時期にあわせて、スポーツという視点から繊維研究を紹介する「疾走するファイバー」展が行なわれているが、その期間限定の展覧会の中でさえ、実験コーナーがあり、光ファイバーを体験したり、水分を含むと熱のでる繊維をさわったり、ナノファイバーを作る器具を実際に動かす実験が時間を決めて行なわれる。未来館で一日過ごすと多くのワークショップに参加できるわけだ。

より本格的な環境で行なう実験工房
実験工房での実験風景
実験工房での実験風景
実験工房の風景 上:超伝導の実験
下:「ダイヤモンドをつくろう!?」
 さらに、ワークショップという観点から、未来館における魅力的なアクティビティのひとつに、実験工房というものがある。専門性の高い実験器具の設備が整った実験室があり、専門スタッフが来館者とともに実験を行なう。内容はレーザーや超伝導の仕組みを理解する実験や、DNAやたんぱく質を取り出す、ダイアモンドを作る、ロボットを作るなど、定常的ないくつかの実験プログラムが用意されている。また、これに加えて、特別プログラムとしては、ノーベル賞授賞科学者の白川英樹先生とともに導電性プラスチックを合成する実験などがある。
 これらの実験はだいたい10名前後の定員制をとっている。年齢制限は、小学校3年生以上、中学生以上など最低年齢は定めているが、けして子供向けという内容ではなく、未来館自体が、来館年齢層を中学生以上としているため、展示自体も子供向けという作りはしていないため、実験もかなりハイブリットだ。どちらかといえば、同伴した大人(親)のほうが面白がって帰っていくパターンも珍しくない。人文系の学問を専攻したものにとって、実験室などというところに足を踏み入れたのは、いったい何年前だろうか? 思い出せない人も多いだろう。

科学を伝える表現方法としてのワークショップ
 古い技術の陳列以外を試みる、現在の「知」を扱う近年の科学館というところは、ほかのミュージアムに比べてもっともワークショップの歴史が長いところではないだろうか。展示として、文字ではない表現方法で、空間と時間を利用したミュージアムという箱の中で、いかにして科学の世界を感じとり、理解してもらうか。展示物のデザインやインターフェースを開発しながら、「知」というものを伝える難しさにぶつかり、結局はマンツーマンで教えてもらう以上のインターフェースがあるのだろうか?と日々思うのである。実際に、実験教室やワークショップに参加する時間の密度は格別であり、その結果は実験のリピーターの多さでも証明されている。
 静的な作品を鑑賞するのとは違い、動的な人が介することで何が出てくるかわからない、自分との距離が保てない怖さはワークショップの魅力であり、参加するには心も頭もオープンな状態でなければならない。自分の心や知性の別の側面を発見するのもミュージアムに行く大きな目的であると思う。もし、未来館に来たのなら、インタープリターに話しを聞くもよし、実際に実験に参加するもよし、ミュージアムという箱の中で、自分の「知」の世界が開く時間を、堪能していただきたいものである。
[ うちだ まほろ ]
ICCを使い倒せ──住友文彦
館全体がワークショップ「日本科学未来館」──内田まほろ
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