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フォーカス
村田真|原久子
2004年を振り返る
原久子
 この1年で印象に残った「展覧会」……というと結構難しいので、作品や作家との出会いなど選択の幅を広げて思い返してみた。

新人
 まずは新人ではじめて見て一瞬めまいに襲われるほど、作品に釘付けになってしまったのは、野原健司(児玉画廊・大阪、8/21〜9/4)、岩井知子(複眼ギャラリー・大阪、10/28〜11/9)。野原は京都市立芸術大学卒業後、渡仏。マルセイユの美術学校で学び、1年前に帰国した。日記のように描いていたり、コラージュしたりしてつくっている「本」の体裁を持つ作品や、ペインティング、ドローイングなどを出品。紙の作品は絵具のにじみや、細かな線が彼独特のファンタジックな世界をつくってゆく。岩井は春に大阪芸術大学の写真学科を卒業したばかり。写真も構図の面白さがあるが、ハガキ大の紙に黒いフェルトペンで描いたシンプルなカタチと余白にひかれた。

この男、危険につき注意
 ここ数年すっかり目の離せない存在となった高嶺格。『美術手帖』2004年4月号(特集「いま世界を動かしはじめた最新アーティスト100人」)ではノミネートの段階で執筆者10人中9人が彼を推薦したという話を編集者から聞いた。「Living Together is Easy」展でのインスタレーション《ビッグ ブロウ ジョブ。》、「六本木クロッシング」展に出品した《Korean Studies》、「釜山ビエンナーレ2004」での《Baby Insa-dong》、金森穣演出によるダンス新作《Noism04 "black ice" 》の舞台美術ほかの国内外での一連の創作活動は、他のアーティストの追随を許さない。

暑い盛りの男だけの展覧会
高橋匡太 高橋匡太
「Hi-energy field」展での高橋匡太の作品
 名和晃平、西尾康之、岡部俊彦、高橋匡太が出品した「Hi-energy field」展(KPOキリンプラザ大阪、8/7〜9/23)は、キリンプラザという箱を用いる展示方法に限界を感じる部分もあったが、注目すべきアーティストを多くの人が認知する機会となったように思う。関西では作品をみる機会がこれまでなかった西尾作品は、反響を呼んだ。高松伸がバブル期に設計した建物上部が「行灯」のようになった構造をいかし、ダンサーなどとのコラボレートもあわせた高橋匡太の光のパフォーマンスは、夜の道頓堀に異変を起こした。

小企画の力作
「ジュン・グエン=ハツシバ」展カタログ
「ジュン・グエン=ハツシバ」展カタログ
 大型の展覧会ばかりがフォーカスされる森美術館ではあるが、これからの活躍を期待される若手アーティストを応援する「MAM PROJECT」という小企画でも密かに健闘している。サンティアゴ・ククルに続いて行なわれた「ジュン・グエン=ハツシバ」展(森美術館、5/29〜7/19)が印象に残る。水俣湾で撮影された《メモリアル・プロジェクト 水俣:それではないが、無いわけでもない、無いわけでもないが、それではない――ラブ・ストーリー》は、ほかの会場でも観たが、スクリーンのサイズやサウンドのヴォリュームなどいい状態での上映だった。展望台のある52階なので、必ずしも作品を目的で来場していない人たちもオーディエンスのなかにはいるのだが、足を止めゆっくり観てゆく人たちが多かった。ここでは作品の力量がかなり試されることにもなる。一部のアートフリークだけにマニアックに愛されているわけではなく、いい作品はどんな人にも受け入れてもらうことができるということが実証されたことにもなる。《ホー! ホー! ホー! メリー・クリスマス:イーゼル・ポイントの戦闘――メモリアル・プロジェクト沖縄》は落ち着いて映像を堪能できた。ジュン・グエン=ハツシバの作品は国際展でもよくみかける。映像インスタレーションは5分が限界と言う人もいるが、彼の作品は15分近くある作品も稀ではない。しかしどの会場でも滞留時間が長いのでオーディエンスが彼のブースに集中する傾向がある。動くイメージの扱い方の巧みさということもいえるかもしれないが、ジュン・グエン=ハツシバの題材に対するアプローチの仕方にはいつも唸らされる。

オーストラリアは隠れた芸術大国?!
 初めてオーストラリアを訪れる機会があり、シドニーとメルボルンの2都市ではあったが、10日間調査してまわった。「シドニー・ビエンナーレ」「2004 : Australian Culture Now」が開催されていた時期にもぶつかっていたためか、どこへ行ってもかなりレベルの高い作品をみることができた。オーストラリアのアートシーンは、日本ではなかなか紹介されることがない。日本の真南に位置し、時差もほとんどないこの国のことに私自身あまりにも無知なままだった。
フェデレーション・スクエア
フェデレーション・スクエア
 アーティストたちが多く住み、音楽シーンなどあらゆるジャンルが活気をもっているのがメルボルンで、感覚的にはシドニーのような都会ではないので日本でいえば関西っぽい雰囲気がある。この地には、ダニエル・リベスキンドの設計によるフェデレーション・スクエアという美術館、劇場などの集まるアートコンプレックスがあり、そこで開催されていた「2004 : Australian Culture Now」は、建築、ファッションまで含めた芸術文化全体を概観するような展覧会だった。メディア・アートを含む映像系の作品に質の高いものが多く。映像を用いる作家では、若手のデヴィッド・ロチェスキーなどのように日本でもすでに紹介されている人もいるが、ほとんどがいまだ紹介されていない作家ばかり。2006年には日本におけるオーストラリア年ということなので、ぜひ多くの作品が紹介されることが望まれる。

新しい美術館
 今年開館した美術館がいくつかあるが、このサイトでも特集された金沢21世紀美術館は、特にオープニング記念で気合いが入っていたことは間違いないが、満足度が高かった。すでに多くの人たちがこの美術館については触れているし、私自身もレビューで触れているので同じことを何度も繰り返す必要はないと思うが、改めて今年を振り返ったときに書き留めておくべき事柄だと感じた。

 最後に、おまけのようでかなり一番重要だと思っているのは、「六本木クロッシング 日本美術の新しい展望 2004」(森美術館、2月7日〜4月11日)。もちろん自分自身がノミネーター、ゲストキュレーターとしてかかわったので、ここで挙げるのをためらう気持ちもあったが、当然のことながら印象に残っているし、この展覧会に関われたことを誇りにも思っている。私たちの周囲にはたくさんの新人も登場すれば、活動を記録にとどめるべき作品も多くある。全貌とまでは欲張らずとも、その一端であっても網羅的にきちんと国内で起こっている現状をとらえて展覧会というかたちにする必然性がある。それを六本木クロッシングでできたことはなによりよかったことだったと考えている。

 冒頭で、1年を振り返ることを「難しい」と言ってしまった。この言葉尻をとらえて、それは美術界の閉塞した現状を指すと思う方もあるかもしれない。だが、美術館など制度のなかで動いている部分にはもちろん閉塞感があることは否めないが、そうとばかりも言えないと思う。いつの世も閉塞感に満ちていると感じる人は感じ続けるのだろう。方々へ目を向けてみれば、いろんなことを好き勝手にやっている連中が山のようにいて、閉塞感を感じる暇もないままに、私はまたきっと2005年もあちこちでそんな作品や作家たちと遭遇してゆくのだろう。

[ はら ひさこ ]
村田真|原久子
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