▼『批評空間臨時増刊号
モダニズムのハードコア──現代美術批評の地平』
(浅田彰+松浦寿夫+岡崎乾二郎編、太田出版、1995)
正確には「artscape」開始前年の刊行なのだが、やはり画期的な意義があった書物だけにリストアップせざるをえない。モダニズムおよびそれ以後の展開を踏まえるうえで必読の論文が多数訳出されているほか、併録のインタヴューやディスカッションもそれを理解するうえで大いに有益。編者たちの日本のモダニズム受容に対する認識はいたって否定的なトーンで語られているが、企画の核であったクレメント・グリーンバーグ論文の本格的な翻訳書『グリーンバーグ批評選集』(藤枝晃雄+上田高弘訳、勁草書房)の紹介が2005年までずれ込んでしまった現況を考えればそれもむべなるかな。
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▼椹木野衣『日本・現代・美術』(新潮社、1998)
『美術手帖』誌上での連載をまとめた長編批評。「円環のポップ」と「還元のポップ」という著者独自の二分法を主武器に、90年代の最新動向から遡行する形で戦後の日本美術の流れを大胆に再構成し、多くの判断が留保されたままの宙吊り状態を「悪い場所」として規定する力業を展開した。未だ正統な通史が存在しない状況下で、「全面的に肯定」(針生一郎)、「さわらぎ自虐派」(彦坂尚嘉)など多くの賛否両論を巻き起こしたこの10年来で最大の問題作。
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▼川俣正
『アートレス──マイノリティとしての現代美術』
(フィルムアート社、2001)
国際的な名声を博するアーティストは、実はアートに対する極めて否定的な感情の持ち主でもあった。「アートフル」な思い込みを排し、それとは対極にある「アートレス」な距離感とバランス感覚を獲得せよ! 常に「現場」の第一線で軽快なフットワークで活躍し、多くのサイト・スペシフィックな試みを行なってきた著者の詳細な活動記録にして、爽快な読後感を残すマニフェスト集。
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▼岡崎乾二郎『ルネサンス──経験の条件』
(筑摩書房、2001)
『批評空間』誌上での連載をまとめた長編評論。ブルネレスキ+マサッチオの《ブランカッチ礼拝堂壁画》の精密極まりない解像分析を中心に、透視図法/遠近法の核心を「思い込み」に見出していく推論は大胆にして繊細であり、マティス、ヴェネツィア派、フェルメール、フォーマリズムなどを参照して独自の参照関係を編み上げていく眼の確かさは驚嘆に値する。「経験の条件」とは、この力業に賭けられていた実作者としての矜持でもあるだろう。
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▼『SUPER FLAT』(村上隆編、マドラ出版、2000)
村上隆関連で一冊選ぶとすればやはりコレ。村上本人の「スーパーフラット宣言」「日本美術論」のほか、「カメラアイのない世界」に着目した東浩紀の論考、さらには伊藤若冲や葛飾北斎にはじまる多くの作品図版を収める。ヒロポンファクトリー(現・カイカイキキ)の面々による作品の多くはけっして質が高いとは言えないが、それだけに逆に「日本は世界の未来かもしれない」と言い切るコンセプトの明快さを効果的に引き立てている面もある。
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▼佐々木正人
『レイアウトの法則──アートとアフォーダンス』
(春秋社、2003)
日本のアフォーダンス研究の第一人者として知られる著者が、この生態心理学の概念を駆使して、アートと情報環境の関連を精力的に語った一冊。分析の対象は絵画、写真、建築、組み版など多岐に渡り、「光」「力」「余白」といった角度からの独自の語り口、作家から引き出されるさまざまな言葉はいずれも精彩に富んでいる。この魅力は、アフォーダンスの本質に着目することによって考え抜かれたタイトルにも多くを負っているだろう。
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▼松井みどり
『アート──“芸術”が終わった後の“アート”』
(朝日出版社、2002)
1980年代-90年代の現代アートの趨勢を、アメリカの状況を中心に俯瞰した入門書。ヘーゲルの「歴史の終わり」を髣髴させるタイトルは、この時期のポストモダニズムや多文化主義の展開に大きな歴史的意義を見出している著者特有の認識にも対応している。21世紀については本格的に展開されていないのが残念だが、それについては続編による補完と新たな展開を期待。
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▼椹木野衣『戦争と万博』(美術出版社、2005)
会期中の観客動員約6,400万人。未曾有の国家的イヴェントであった大阪万博(1970)は、実は幻に終わった戦前の紀元2600年博(1940)の30年越しのリターンマッチでもあった。このイヴェントに関わった多くの建築家や前衛芸術家の足跡を丹念にたどりつつ、「未来」「実験」「環境」などのキーワードを軸に両者の驚くべき相似を明らかにする。万博とは、万博芸術とは何か。「愛・地球博」開催の年に世に問われた最も野心的にして先鋭的な万博研究の書。
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▼『美術手帖』2005年7月号
「特集=日本近現代美術史」(美術出版社)
美術出版社の創業100年記念特大号。1905-2005年の日本美術史100年の流れを、7本のテキストや李禹煥、草間彌生、川俣正、森村泰昌、村上隆のインタヴュー、詳細な年表+チャートによってまとめている。図版も豊富に収録されていて資料的な価値も高い。雑誌のバックナンバーとしては破格のヴォリュームだが、単独の教科書・入門書としてみればむしろコンパクトで重宝する一冊。全体の監修は北澤憲昭と椹木野衣。
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▼『THE CREMASTER CYCLE』
(Guggenheim Museum Pubns、2003)
チャプターごとの頭出しが容易なのはDVDの大きな利点である。その点、全5部からなり、チャプターごとにスポーツ、生物学、歴史、神話といったテーマを自在に横断するマシュー・バニーの《クレマスター》は、本来は劇場公開用ながらもDVD時代の申し子とも呼ぶべき作品だろう。その制作過程はもちろん映像としても残されているが、ここではそれらの記録をまとめた一冊の洋書を紹介しておきたい。一見高価だが、充実した再録内容からすれば十分もとの取れる一冊。
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