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●学芸員ノート 今年の夏から秋は、お茶会プロジェクト「もてなし」に忙殺されて過ぎたため、地元だけでもかなりの数の展覧会を見落としてしまった。(ところで、11月15日号の村田真さんの「なんで横文字のMOTENASHI展なの?」という問いにご返事します。ひらがなで「もてなし」展です。チラシを広げたとき、横文字がいやに目立つデザインだったことが誤解のもとでした。福岡では「もてなし」ですっと浸透したので、まったく気にしていませんでした。失礼しました)。 さて、11月18日の「もてなし」展閉幕直後か ら、障碍の茶室一軒分を12メートルのスロープともども解体し、大量の材木を運びだして、まずは一息という週末。展覧会を見に行かねば、でもリラックスしたい!という切実な内なる声に正直に選んだ展覧会が「吉野辰海」展と「角孝政」展。 まずは、吉野さんのねじり犬が大挙して福岡入りした先、市内から車で南に1時間半ほど行った山間の、廃校になった小学校を改装した「共星の里 黒川 INN美術館」。一 帯は果樹栽培が盛んな土地柄で、訪ねたころは柿の収穫の終わりごろ。アバウトな地図を頼りにしたため、関係者以外立ち入り禁止の柿山に思いっきり迷い込んでしまった。作業を終えて帰るところだった農家の人に幸い道を聞くことができ、やっとのこと美術館にたどりついた。
夏には森が覆われるほど蛍が群れ飛ぶ山村は、晩秋を迎え本当に静かな佇まいを見せていた。このあたりはコンビニや自販機のけばけばしい灯りも看板類もほとんどなく、迷った道すがらも含めて、紅葉の美しい田舎の秋を堪能できてうれしい。 小学校の四つの教室に林立する、ここ十数年に制作されたねじり犬は、猛々しくて、なさけなくて、愉快で、もの哀しかった。町中の画廊や美術館で見るより、犬達の修行僧のような風貌も、カマキリと踊る「共生」のステップも生々しい。夜更けに目覚めた犬達が山にかかる月に向かって吠えはじめるのでは、とリーフレットに文章を寄せた池内紀さんの幻視が現実になるような気分になってくる。 山の夕暮れは早く、ひと気も火の気もない小学校で冷えたので、山を下って第二会場の原鶴温泉へ。ホテルの庭に置かれたねじり犬の大首と、すっかり親しくなった気分で記念写真をとったあとは、今回の最大の目的、温泉で極楽極楽。 次なる展覧会は、福岡市在住の若手美術家、角孝政さんの5年ぶりの新作展「くまむし」。発砲スチロールでつくった作品「くまむし」はとにかくあきれるほど巨大で意味なく、そのすごさに何だか気分がよくなってくる。 しかもこんなうそっぽいほど、怪獣的な微生物は、落ち葉や苔のあるところなどにふつうに存在しているらしい。高温、低温、真空にも耐えるすごい生命力の持ち主らしい。生物好きの私としてはその存在がめちゃめちゃ気になる。
カイワレワニ、巨大シラミに、ビスキャット(ビスケットボックスと合体したネコ)などなど、奇天烈な造形力では右に出るものがいない角さんが、ひねりなしで、ただその姿にほれこんで、本当に好きだからつくった、というシンプルな動機も気持ちがいい。 今回は、「生きたくまむしを顕微鏡で観察!」という触れ込みの、作家自身のギャラリートークに合わせて来廊することに最初から決めていた。 ギャラリートークは、大雨のため遅れて駆けつけた角さんが、濡れたまま必死で机や顕微鏡やビデオをセッティングするに始まり、不思議なくまむしの生態の概説から、たどたどしいスーパーの実演販売のように、自ら編み出した発見方法を説明し実際に行い、偶然にもあっさり、投影式の顕微鏡(といざらすで購入)で実物(ただし作品化したくまむしとは別種のもの)が発見されるにいたり、会場は(参加者は5人)静かななかにも盛り上がりをみせた。 いまも「くまむし」たちのことを考えると、わくわくしてくる。角さん、すてきな「ときめき」をありがとう!
[かわなみ ちづる] |
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