2019年08月01日号
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「アトラクションの映画」トム・ガニング

“The Cinema of Attractions: Early Film, Its Spectator and the Avant-Garde”, Tom Gunning

1990年代に興隆した初期映画研究の立役者のひとりであるトム・ガニングによる86年の論文。ガニングによれば、06年頃までに作られた初期映画は、のちに主流となる物語映画の未熟な前段階なのではなく、「アトラクションの映画」と呼ぶべき別の種類の映画である。つまり、ストーリー・テリングの魅力に基づき、観客が窃視症的に没入するタイプの映画ではなく、ショックや驚きといった直接的な刺激を強調するスペクタクルによって、観客の注意をじかに引きつける露出症的な映画である。また、この論文では、単に映画作品内部の様式(クロース・アップや数々の映画的操作)だけでなく、初期映画が主に演し物のひとつとして上映されていたヴォードヴィルとの関連という受容の場にも注意が払われており、とりわけその点で、若きエイゼンシュテインが構想した、観客に攻撃的な「感覚的・心理的作用」を及ぼすような「アトラクションのモンタージュ」としての演劇という考えとつなげられている。さらに、初期映画に見られるアトラクションの要素は、必ずしも物語映画と相容れないものではなく、以後の映画史では、アヴァンギャルド映画においてのみならず、ミュージカル映画や、さらには「飼い馴らされた」かたちでスピルバーグ的な「効果の映画」などに潜伏しているという指摘も重要だ。このようにいくつもの刺激的な補助線が引かれた「アトラクションの映画」という喚起的な概念は、単なる初期映画研究を超えて、視覚文化研究の広範な分野に波及している。

著者: 堀潤之

参考文献

  • 『アンチ・スペクタクル 沸騰する映像文化の考古学』, 「アトラクションの映画 初期映画とその観客、そしてアヴァンギャルド」, トム・ガニング(中村秀之訳), 東京大学出版会, 2003
  • The Cinema of Attractions Reloaded, Wanda Strauven ed., Amsterdam University Press, 2006

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