2019年06月01日号
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「メディア論のための積木箱」ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー

“Constituents of a Theory of the Media”, Hans Magnus Enzensberger

ドイツの詩人・文芸評論家ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーによって、自身が主催する雑誌『Kursbuch(時刻表)』に掲載された論文。エンツェンスベルガーは、1962年の著書『意識産業』において、アドルノとホルクハイマーが『啓蒙の弁証法』のなかの「文化産業」の章で行なったメディア消費社会批判をさらに徹底させる。その後、70年の「メディア論のための積木箱」では、例えば保守的なメディア論で頻繁に名前が挙げられるマクルーハンを批判しながら、同時に左翼陣営が従来の美学にとらわれて、ベンヤミンやブレヒトのようなメディアをラディカルに使用していくポジティヴな視点を持っていないことを批判する。この論文を受けて日本では、73年2月に来日したエンツェンスベルガーを囲んで、東京ドイツ文化研究所とフィルムアート社の共催により、「エンツェンスベルガー氏を迎えてのシンポジウムとヴィデオ・トーク」が開催された。日本側のパネラーは、佐々木守、東野芳明、原広司、寺山修司、鈴木志郎康、津村喬、中平卓馬、針生一郎、今野勉(司会)らで、いわばメディア論の時代における「近代の超克」シンポジウムとも呼べるようなものであった。このなかでエンツェンスベルガーは、双方向メディアの民主主義的な可能性について訴えるが、日本側は悲観的な状況認識に終始した観があり、議論は平行線のうちに終わる。今日その議論を振り返るならば、エンツェンスベルガーの一見楽観的ともとれるメディアへの希望を、単なる当時の社会主義イデオロギー的幻想と受け取るわけにはいかない。むしろそこに徹底したペシミスティックなメディアへの批判が通底していることをむしろ見るべきであろう。一方で、対立的な論調だった日本側のパネリストにしても、現代のメディア消費社会が出現することに有効な対抗手段を持ちえず、それについても批判的に考察していく必要があるだろう。

著者: 河合政之

参考文献

  • 『メディア論のための積木箱』, H・M・エンツェンスベルガー(中野孝次、大久保健治訳), 河出書房新社, 1975
  • 『芸術倶楽部』1973年7月号, 特集=アウラからデーモンへ, フィルムアート社
  • 『情報社会を知るクリティカル・ワーズ』, 田畑暁生編, フィルムアート社, 2004

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