2019年06月01日号
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「ヴィデオ ナルシシズムの美学」ロザリンド・クラウス

“Video: The Aesthetics of Narcissism”, Rosalind Krauss

アメリカの美術批評家・理論家ロザリンド・クラウスが1976年、『オクトーバー』誌の第1号に寄稿した論文。ヴィデオ・アートの本質を精神分析学的な立場からナルシシズムであるとして批判的に論じた。当時のヴィデオ・アート作品には、ヴィデオの特性である閉回路的な構造を利用したフィードバック・システムを用いた作品が多かったが、クラウスによれば、それは作家あるいは観客の主体性と対象を同じサークル上に置き、無限ループのなかでその境界をあいまいにすることで、客観性を主体性のなかに取り込んでしまうことになるという。その理論化のためにクラウスは主にラカン派の精神分析を援用している。だがこの論はヴィデオ・アートの意図の把握においても、あるいはメディアに関する技術論的な観点からも、そして精神分析の理解としても、皮相にして牽強付会にすぎるものであったといえよう。まずナルシシズム性の批判はTVなどのマスメディア的な映像体験の社会批判としては幾分理解できるところがあるが、ヴィデオ・アートの意図は基本的にその状況をさらに考察・批判するために、あえて作品という純粋なかたちで提出することにあるからだ。また、特にモダニズム絵画との比較によってヴィデオを批判するくだりは、メディアそれぞれの時間的な特性を無視した議論というべきであろう。なぜならヴィデオは時間的な体験においてこそ、主体性と客観性の相互作用が起きるのであり、それは絵画のような非時間的な経験と根本的に異なるものだからだ。だがクラウスのヴィデオ=ナルシシズムというコンセプトは、ポストモダニズムを代表する美術批評家であるクラウスの影響力と相まって、特にアメリカ現代美術を中心とするヴィデオ・アートの美学的な認識に大きな影響を与えることになった。

著者: 河合政之

参考文献

  • October, Vol. 1. Spring, 1976, The MIT Press, 2010
  • Perpetual Inventory, Rosalind E. Krauss, The MIT Press, 2010
  • New Artists' Video: A Critical Anthology, Gregory Battcock, Plume, 1978
  • 「ヴィデオを待ちながら 映像、60年代から今日へ」展カタログ, 「ヴィデオ ナルシシズムの美学」, ロザリンド・E・クラウス(石岡良治訳), 東京国立近代美術館, 2009

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