2019年06月15日号
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「委員会の論理」中井正一

“Logic of Committee”, Masakazu Nakai

美学者の中井正一が1936年、『世界文化』1-3月号に記した論文、およびそこで展開された理論。中井は人間の集団思考の理想的なあり方と、その形態を理論的に描こうとした。中井は論理を組み立てるために、まず、「古代文化=言われる論理」、「中世文化=書かれる論理」、「近代文化=印刷される論理」と時代を定義する。そして「言われる論理」から「討論」が、「書かれる論理」から「思惟」が、「印刷される論理」から「技術」と「生産」が契機として導き出され、すでに発生していた「実践」と「計画」が委員会の論理を構成するとした。
哲学者・評論家の鶴見俊輔は「1930年代に公人として軍国化に対してたたかって言論の自由をうばわれた中井正一が、1940年代に入って私人としては戦争政策に組する立場に移り、1945年の敗戦以降大衆とのむすびつきの中で民主化のための知識人の役割を果そうとふたたび公人として努力するという、抵抗、転向、抵抗という三つの部分」を中井の生涯のなかに認めた。美術史家の木下長宏はこの鶴見の区分を引き継いだ上で、「委員会の論理」が30-40年代の「抵抗の時代」に着想・執筆され、大戦中の「転向の時代」に韜晦し、再び訪れた晩年の「抵抗の時代」の初期に実践面での試みを再考し、最後に理論としての復活を試みるが未完に終ったと分析した。さらに木下は「論文によって彼は、理想形態としての人間の集団思考の方法、その機構のありかたを精密に描いてみせようとしたが、そういう集団活動を常に阻害し妨害する悪の機構の誕生する可能性とその摘発、およびその処理の方法の『委員会の論理』については詳述しなかった」と考察して、その限界を指摘している。中井の思想を追うことは、日本の思想史を知るとともに、日本の思想家の限界と可能性を熟考する機会を与えてくれるといえよう。

著者: 宮田徹也

参考文献

  • 『美と集団の論理』, 中井正一(久野収編), 中央公論社, 1962
  • 『増補・中井正一 新しい「美学」の試み』, 木下長宏, 平凡社ライブラリー, 2002
  • 『中井正一評論集』, 長田弘編, 岩波文庫, 1995

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