2019年08月01日号
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『啓蒙の弁証法』テオドール・アドルノ&マックス・ホルクハイマー

Dialektik der Aufklarung: Philosophische Fragmente(独), Theodor W. Adorno & Max Horkheimer

ドイツの思想家テオドール・アドルノとマックス・ホルクハイマーによって1939年から44年にかけて共同執筆され、戦後の47年に出版されたフランクフルト学派による批判理論の代表的著作。ナチス・ドイツがヨーロッパを席巻しつつあった時代に、彼らは亡命先のフランスとアメリカでこの書物を執筆した。本書のなかでは、ヨーロッパ的な理性が全体主義という野蛮へと退行したことが批判されるが、その批判の矛先はヒトラーのファシズムだけでなく、「リベラル」な大衆社会を達成しつつあったアメリカにも向けられている。特に「文化産業 大衆欺瞞としての啓蒙」の章は、メディアによって大衆が消費の自由を与えられることにより、見せかけの多様性や価値に振り回され、自ら欲して均質化し、制度の奴隷と化していくさまが、酷薄なまでに鋭い文体で批判されている。彼らの図式は、単なるマルクス主義的なイデオロギー論・疎外論・物象化論に収まらない。新しいメディア技術とともに、消費社会的楽観主義に充たされた大衆社会は、むしろネガティヴなかたちでの啓蒙の完成なのであり、そこは大衆が自ら進んで社会を全体主義化する、新しい「収容所」なのである。このようなメディア社会の批判は、のちのギー・ドゥボールによる「スペクタクルの社会」などさまざまな情報化社会批判の先取りであるが、それらに共通する重要な点は、いわゆる体制/反体制の二元論が無効化した社会を見据えていたということである。このことを理解しないで、単に「抑圧的な権力」対「受動的な消費者」といった安易な疎外論的な立場から、これらのメディア消費社会批判を読むことはできないだろう。そのような意味で、この書物を貫く社会批判のトーンが、まったく政治的立場を逆にするハイデガーの同時期の著作と呼応し合うことは意味深長である。

著者: 河合政之

参考文献

  • 『啓蒙の弁証法 哲学的断想』, テオドール・アドルノ、マックス・ホルクハイマー(徳永恂訳), 岩波文庫, 2007

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