2019年09月01日号
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『映画とは何か』アンドレ・バザン

Qu’est-ce que le cinéma?(仏), André Bazin

フランスの映画批評家アンドレ・バザンの批評集。戦中に映画批評家としての活動を開始したバザンは、1951年に映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の創刊に関わり、58年に亡くなるまで同誌を率いた。ヌーヴェル・ヴァーグの映画作家の「精神的父親」として知られる。本書には、15年の批評活動のなかで書かれた2,600に及ぶ記事のうち、加筆修正を経た64本が収められている(現在フランス語で入手可能な選集版はうち27本のみ)。その映画論は、映画の基盤である写真についての考察を出発点とする。バザンは「写真映像の存在論」(1945)で、写真の独自性は、人間の介入なしに自動的に生み出されることから来る「本質的な客観性」にあると主張(この論文は写真のインデックス性をめぐる議論でもしばしば取り上げられる)。映画はそうした写真の客観性を時間のなかで完成させたものであって、映画の美学は現実を明らかにするリアリズムであるべきだとした。それゆえバザンは、現実に意味を押しつけるモンタージュよりも、現実のもつ「曖昧さ」を尊重するワンシーン=ワンショットやディープフォーカスにもとづくスタイルを評価した(O・ウェルズ、J・ルノワール)。R・ロッセリーニらによるイタリアのネオレアリズモの運動は、バザンにとって、そうした「現実の美学」を体現するものであった。こうして映画独自の美学を規定する一方で、バザンは偏狭な映画至上主義に陥ることなく、映画と他の諸芸術(文学、演劇、絵画)との「美学的共生」についても積極的に論じ、映画の「不純さ」を擁護した。『ピカソ 天才の秘密』などを論じた美術映画論は美術の文脈からも興味深いものであろう。70年代にはイデオロギー批判の標的となることもあったが、バザンの映画論はたえず映画作家、映画批評家を刺激し続け、没後50年を経たいまもなおその輝きを失っていない。

著者: 角井誠

参考文献

  • 『映画とは何か』(全4巻), アンドレ・バザン(小海永二訳), 美術出版社, 1967-1977
  • 『小海永二翻訳撰集 第4巻 映画とは何か』, 丸善, 2008
  • Opening Bazin: Postwar Film Theory and Its Afterlife, Dudley Andrew and Hervé Joubert-Laurencin ed., Oxford University Press, 2011

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