2019年08月01日号
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『記号の経済学批判』ジャン・ボードリヤール

Pour une Critique de l’Economie Politique du Signe, Jean Baudrillard

1972年に出版されたフランスの社会学者・思想家ジャン・ボードリヤールの著作。60年代末から70年代初頭に書かれた論文11編を収録している。消費社会における商品が、記号=物[=オブジェ]として社会的な意味作用を持つことの問題化は、すでに最初の著書である『物の体系』(1968)で鋭く行なわれていた。そこでは、そうした問題を論じるうえでの構造言語学の有効性が示され、またそれとは必ずしも対立しないものとしてマルクスの理論の再考の必要が語られていた。本書では、そうした問題意識と方法論を——『消費社会の神話と構造』(1970)を経由して——引き継ぎつつ、マルクスが『経済学批判』『要綱』『資本論』で考察した商品という価値形態の生産の理論が、より徹底して批判的に再検討されている。とはいえ、彼は「マルクスのために」その作業を試みた訳ではなく、アルチュセールについては、マルクスの理論の名人芸的継ぎ接ぎだと退ける。彼の考えでは、マルクスの理論を一貫性を持つものとして捉える限り、それは生産の場面でしかやはり機能せず、消費社会の理論としては不十分なのだ。しかし、そのようにマルクスの限界を宣告——『生産の鏡』(1973)でそれは決定的となる——しつつも、その「商品形態」の理論を、商品が社会的な意味を生産する「記号形態」の理論へと(ズレを孕みつつも)アナロジカルに反復・拡張させることが、構造言語学の援用によって可能だ。そして、そうした構造的観点に立つことでこの著者はまた、商品の記号的意味のみならず、上部/下部構造の対立、フェティシズム、個人という単位、交換価値/使用価値の差異、使用価値や欲求や自然環境の根源性への信仰にしても同じく、無意識のうちに社会的・構造的に生み出された価値(政治的意味)であることを暴くのだ。なお、そうしたプロブレマティクから現代美術における意味創造やバウハウスのデザインについて書かれた文章も、本書には収められている。

著者: 瀧本雅志

参考文献

  • 『記号の経済学批判』, ジャン・ボードリヤール(今村仁司ほか訳), 法政大学出版局, 1982
  • 『物の体系 記号の消費』, ジャン・ボードリヤール(宇波彰訳), 法政大学出版局, 1981
  • 『生産の鏡』, ジャン・ボードリヤール(今村仁司、宇波彰、桜井哲夫訳), 法政大学出版局, 1981
  • 『「経済学批判」への序言・序説』, マルクス(宮川彰訳), 新日本出版社, 2001

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