2019年06月15日号
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『負ける建築』隈研吾

Makeru Kenchiku, Kengo Kuma

2004年に刊行された建築家の隈研吾による著書。1995年以降自身の論考をまとめ建築論として発表した。都市にそびえ立つ高層建築や郊外に建ち並ぶ戸建て住宅を、周囲の環境を圧倒する20世紀型の「勝つ建築」と捉え、それらと対照的な受動性に富んだ建築の可能性を指摘している。彼によれば、ケインズ経済学をもとにした公共投資や民主主義の政治による持ち家政策が、モニュメンタルな「勝つ建築」の価値観を生みだした。しかし、95年の阪神淡路大震災、オウム真理教のサリン事件、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロといった社会的な事象によって「勝つ建築」の脆さが浮き彫りにされた。ゆえに、それに代わるさまざまな外力を受け入れる柔軟さを有し、象徴や視覚や私有という欲望に依存しない「負ける建築」を志向するべきだと主張する。すなわち、「勝つ建築」に替わる非建築システムの提案であり、場所を顧みず、そこに立つ図像のみに終始し続けた建築への批判である。「負ける建築」のシステムは、都市に開き、投げだすような建築であり、持続可能な社会と接続しつつ、共同体のあり方を捉えなおす新たな契機になると述べる。例えば、隈が設計を手がけた《那珂川町馬頭広重美術館》(2000)や《根津美術館》(2009)は、地元産の木や石や竹などの自然素材を活かしたり、過剰な自己主張を抑えることで場所に巧みに身を委ね、景色と調和した「負ける建築」をめざした作品といえるだろう。

著者: 伊藤幹

参考文献

  • 『負ける建築』, 隈研吾, 岩波書店, 2004

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