2019年09月15日号
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『音楽記号学』J・J・ナティエ

Musicologie Générale et Semiologie, Jean-Jacques Nattiez

1987年にフランスで刊行された『Musicologie Générale et Semiologie』(原題『一般音楽学と記号学』)の日本語訳で、1996年に初版、2005年に新装版として復刊。本書は、序論で記号学の理論が概説された後、第1部の音楽の基礎概念にかんする考察、第2部の音楽的言説の分析、第3部の音楽の各パラメータの記号学的分析という構成である。音楽記号学の起源をさかのぼると、1971年の『ムジーク・アン・ジュー』第5号所収のナティエによる論文「音楽記号学の状況」から始まったと言われる。その背景には、かつて西洋中心主義の価値観の下で比較音楽学と呼ばれた民族音楽学が言語学、文化人類学、民俗学、社会学などに接近し、文化相対主義的な新しい流れをつくったことが大きく関与している。こうした機運のなかで哲学、文学、言語学、音楽学といったディシプリンを縦横無尽に渡り歩き、学際的出自を持つナティエが音楽記号学の理論化を試みたことは不思議ではないだろう。音楽を創出面(作曲などの創造行為)・中立面(楽譜あるいは音楽の内在的な付置関係)・感受面(聴取)の総体として捉えるナティエは特に中立面を重視し、中立レヴェル分析を提唱した。音楽の構造に焦点を当てる中立レヴェル分析は客観性を第一とするが、その分析結果の解釈や意味付けは創出面と感受面との関係性で決まる。このような可変性を持つ分析方法はさまざまなタイプの音楽に適用可能だ。したがって、本書の分析例はイヌイットの音楽からミュジック・コンクレートまで実に幅広い。ナティエの理論が今も支持されているのは、こうした守備範囲の広さゆえだろう。しかし、既存のさまざまな記号学理論の単なる折衷として、彼の理論が批判に曝されることも少なくない。

著者: 高橋智子

参考文献

  • 『映画の教科書 どのように映画を読むか』, ジャン・ジャック・ナティエ(足立美比古訳), 春秋社, 1996(新装版2005)
  • 『音楽の記号論』, 細川周平, 朝日出版社, 1981

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