2019年08月01日号
次回9月2日更新予定

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かわいい系

Kawaii-kei, Cutism

「かわいい」という言葉によって形容される幼児性、脆弱性、華やかさ、愛らしさなどを特徴とする作品の総称。日本語の「かわいい」という言葉は、かつては英語の「pretty」や「cute」などによって置き換えられるひとつの形容詞にすぎなかったが、日本のファッション誌やサブカルチャーの輸出を契機として、外国語には翻訳不可能なひとつの美的範疇として次第に認知されるようになった(たとえば、漢字圏の女性ファッション誌では「かわいい」というひらがな表記がそのまま使われ、アルファベット圏では「kawaii」という形容詞が一定の市民権を得ている)。美術の文脈では、90年代半ばに松井みどりが「かわいい」美術の系譜のうちに西洋近代的な主体からの逸脱の可能性を見て取っていた。こうした視点は美術史的にいまでも妥当性を失ってはいないと思われるものの、この時点では「pretty, cute(英)」「mignon, joli(仏)」のような西洋諸言語と日本語の「かわいい」のニュアンスの差異はいまだ問題化される段階にはなく、その点で今日とはやや事情が異なるということも付言しておきたい。四方田犬彦が指摘するように、今日しばしば問題となっているのはむしろ、外国語に翻訳不可能な概念としての「かわいい(kawaii)」をめぐる問題系である。通時的に見れば、「かわいい」は「わび」「さび」「幽玄」「いき」などに並ぶ日本的な、あるいは日本発のローカルな美的範疇のひとつである。他方、共時的に見れば、「かわいい」は脱政治的な感性を指向する現代に特有のグローバルな美的範疇であり、それを過度に日本的な美意識に引き寄せることにも注意を払わねばならない。いずれにしても、奈良美智や落合多武らを先駆とする「かわいい系」作家の世界的な成功は、日本的なローカリティに由来する文化的特異性と、「かわいい」という美意識そのもののグローバルな拡張の双方と軌を一にしている。

著者: 星野太

参考文献

  • 『「かわいい」論』, 四方田犬彦, ちくま新書, 2005
  • 『美術手帖』1996年2月号「特集=かわいい」, 「偏愛のマイクロポリティクス」, 松井みどり, 美術出版社, 1996

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