2019年08月01日号
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アクースマティック

Acousmatique

ミュージック・コンクレートの創始者、P・シェフェールらが考案した、音がいかなる参照事項(例えば音源や意味)にも結びつかないこと意味する形容詞。例えば「アクースマティックな状況」、「アクースマティックな経験」のように使われる。この用語は時間とともに意味を拡大していった。そもそも「アクースマティック」という言葉は、ピタゴラスが弟子に講義するときに幕を張って身を隠し、声だけに集中させたという故事に由来する(幕の外にいる弟子が「アクースマティコイ」と呼ばれた)。この語を1950年代にミュージック・コンクレートを論じるために使用したのが、小説家で詩人のJ・ペニョとシェフェールだった。シェフェールは『音楽オブジェ概論』(1966)のなかで、フッサール現象学における現象学的還元の理論を参照しながら、この用語と、参照事項をもたない音=「オブジェ・ソノール」、音を参照事項と結びつけない聴き方=「還元的聴取」という3つの概念を論じている。彼の理論は言うまでもなく、音を音源からはっきり分離できる録音技術、スピーカーを用いた楽曲制作から想を得たものである。70年代に至ると、F・ベイルらがスタジオで制作されてホールで上演される音楽を「エレクトロ−アクースティック音楽」に代えて「アクースマティック音楽」と呼ぶようになった。またこうした音楽を上演する、特にマルチチャンネルのサウンド・システムを使用するコンサートも「アクースマティック・コンサート」と呼ばれるようになる。80年代以降、M・シオンはシェフェールの理論を映画音楽に適用した。最初は音源が見えているが後に「アクースマティック化」する状況など、映像と音の関係をこの概念によって考察している。

著者: 金子智太郎

参考文献

  • Traité des objets musicaux, Pierre Schaeffer, Seuil, 2002
  • 『映画にとって音とはなにか』, ミシェル・シオン(川竹英克ほか訳), 勁草書房, 1993
  • 『現代音楽を読み解く88のキーワード 12音技法からミクスト作品まで』, ジャン=イヴ・ボスール(栗原詩子訳), 音楽之友社, 2008
  • Audio Culture: Readings in Modern Music, Christoph Cox, Daniel Warner eds., Continuum, 2004

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