2019年08月01日号
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エクスパンデッド・シネマ(拡張映画)

Expanded Cinema

従来とは違った方法・形態によって上映される映画を指す。1960年代半ばより、実験映画作家や美術家によって作品が発表された。映画館などでひとつのスクリーンに向かって映像が投影されるような映画とは異なり、複数の映写機からの映像を同時にひとつのスクリーンに映写する作品や、上映中に映写機の配置を変える作品、ループ映写される映像を使ったインスタレーション作品、また映写する映像をその場で操作・加工するライヴ・パフォーマンス的な作品などがある。上映空間において映画を他のメディアと関連させるという点で、同時代のインターメディアおよびアート・アンド・テクノロジーの動向とも関連していた。代表的な作品に、スクリーンの前でパフォーマンスを行ないながら、その身体に光を投影するマルコム・レグライスの『Horror Film』(1971)、ループ映写されているフィルムにミシンを操作して穴を開け、フィルムが切れた時点でパフォーマンスを終了するアナベル・ニコルソンの『Reel Time』(1973)、同じ映像を映写する二台の映写機の前に巨大な回転式シャッターを配置し、スクリーン上で特殊な視覚効果を生み出すケン・ジェイコブズの『The Nervous System』シリーズなどがある。またスタン・ヴァンダービークはドーム型の上映設備「ムーヴィー・ドローム」を建設して、そのなかで複数の映写機によって映像を多面投射する試みを行なっていた。日本であれば、二台の映写機を向かい合わせて白コマと黒コマの映像を互いに投影し合う飯村隆彦の『デッド・ムービー』(1964)、三つの映写機から同時にひとつのスクリーンに向かって投影を行なう松本俊夫の『つぶれかかった右眼のために』(1968)や、巨大なバルーンに向かって映像を投影する『イコンのためのプロジェクション』(1969)などがある。また、1970年に発行されたジーン・ヤングブラッド著『エクスパンデッド・シネマ』では、エクスパンデッド・シネマとは個々の映像作品のことではなく、ヴィデオやコンピュータ映像など、当時の新しいメディアによってもたらされる、精神や肉体を離れた「拡張した意識」として捉えられている。

著者: 西川智也+阪本裕文

参考文献

  • Expanded Cinema, Gene Youngblood, E.P. Dutton, 1970
  • 『実験映像の歴史 映画とビデオ――規範的アヴァンギャルドから現代英国での映像実践』, A・L・リーズ(犬伏雅一ほか訳), 晃洋書房, 2010

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