2019年12月01日号
次回12月16日更新予定

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キノ・グラース(映画眼)

кино-оки(露), Kino-Eye(英)

1920年代にソ連の映画作家ジガ・ヴェルトフによって提唱された映像の方法論で、「映画眼」や「カメラ・アイ」とも訳される。カメラを機械による人間の眼の延長として捉え、映画の目的は人間の眼の限界を超えて、さまざまな世界のありのままの姿を見出すことにあると考えた。キノ・グラースの考えはヴェルトフによる映画『カメラを持った男』(1929)で見られた、カメラのレンズと人間の瞳をオーヴァーラップさせた有名なイメージによって象徴される。「キノ・プラウダ」(映画的な真実)を追求したヴェルトフの映画は、走る車や、高い塔の上からのショット、あるいは超近接ショットなど、あらゆる状況にカメラを持ち込み、人間の肉眼では捉えきれない真実を映像的に捉えようとする瑞々しく野心的な試みに満ちている。キノ・グラースという考え方は、編集技術によって映像に新しい意味を与えようとするモンタージュに対立し、映像は真実をそのままに見せるというリアリズムに通じていた。その後キノ・グラースは、フランスの映画批評家・理論家アンドレ・バザンらによって提唱されたリアリズム的映画の思想において称揚されることとなり、ジャン=リュック・ゴダールとジャン=ピエール・ゴランが、彼らの結成した映画制作グループをジガ・ヴェルトフ集団と名付けたように、当時の映画的前衛のひとつの合い言葉ともなった。しかし映像がリアルでもヴァーチャルでもないイメージと化している現在においては、モンタージュや演出が非リアリズム、キノ・グラースがリアリズムという単純な二項対立はすでに時代遅れであろう。

著者: 河合政之

参考文献

  • Kino-Eye: The Writings of Dziga Vertov, Dziga Vertov, Annette Michelson, University of California Press, 1984
  • 『映画とは何か』, アンドレ・バザン(小海永二訳), 美術出版社, 1977
  • 『映画史』, ジャン=リュック・ゴダール(奥村昭夫訳), 筑摩書房, 1982
  • 『映画の教科書 どのように映画を読むか』, ジェイムズ・モナコ(岩本憲児訳), フィルムアート社, 1983

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