Artwords(アートワード)
コンピュータ・アート
Computer Art
現在のメディア・アートやデジタル・アートに繋がる制作過程にコンピュータを使用した作品およびその方法。当初コンピュータを用いて作品をつくることは、プログラムをつくることと同義であり、作品の「美」を構成するアルゴリズムを考えることにほかならなかった。それは人間の創造過程を解明しコンピュータに置き換えるというある意味AI(人工知能)的な哲学を伴って始まり、C・シャノンの情報理論をふまえたM・ベンゼの「情報美学」に帰結する。この系譜から、詩やテキストの領域のN・バレストリーニ、音楽のL・ヒラー&L・アイザックソン、グラフィックのK・ツーゼ、G・ネース、F・ナーケなどコンピュータ・アートのパイオニアたちが誕生した。この時期(1950年代-60年代)の作品は、(1)例えば作曲の和音結合などの基本ルールをプログラムするモデルと、(2)遷移確率やモンテカル法による「確率モデル」に大別できる。また、過去の名作の構成要素をデータとしたヴァリエーション展開も試みられた。1968年の「サイバネティック・セレンディピティ」(ICA、ロンドン)は初期コンピュータ・アートを総括する展覧会となったが、70年代以降のハードウェアとパッケージソフトの普及は、コンピュータを単なるCG制作ツールに陥れる原因ともなった。昨今のオープンソースの潮流はProcessingやopenFreamworksなどの簡便かつ高機能なプログラミング環境を提供し、フィジカル・コンピューティングとも相まって初期コンピュータ・アートの多様性とアルゴリズムの再評価にも繋がっている。
著者: 大泉和文
参考文献
- 『情報美学入門』, マックス・ベンゼ(草深幸司訳), 勁草書房, 1997
- 『情報・コンピュータ・芸術』, ジョン・R・ピアース(白井良明訳), ダイヤモンド社, 1969
- 『コンピュータと美学』, 川野洋, 東京大学出版会, 1984
- The Computer in Art, Jasia Reichardt, ed., Studio Vista, 1971
- Computer Graphics - Computer Art, Herbert W. Franke, Springer, 1971
関連ワード
AR,CRT,VR,「サイバネティック・セレンディピティ」,アルゴリズム,オープン・ソース,コンピュータ・グラフィックス(CG),テクノロジー・アート,デジタル・アート,ネットワーク,フィジカル・コンピューティング,プロッタ,マルコフ・チェイン,マルチメディア,メディア・アート,モンテカルロ法,乱数,情報美学,遷移確率
関連人物
CTG(Computer Technique Group)
クロード・シャノン(Claude Elwood Shannon)
ゲオルグ・ネース(Georg Nees)
コンラート・ツーゼ(Konrad Zuse)
ジョン・R・ピアース(John R. Pierce)
チャールズ・スーリ(Charles Csuri)
ナンニ・バレストリーニ(Nanni Balestrini)
フリーダー・ナーケ(Frieder Nake)
マイケル・ノル(Michael Noll)
マックス・ベンゼ(Max Bense)
ヤシャ・ライハート(Jasia Reichardt)
レオナルド・アイザックソン(Leonard Isaacson)
レジャレン・ヒラー(Lejaren A. Hiller)
川野洋