2019年06月15日号
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サイバネティックス

Cybernetics

通信工学と制御工学、生理学と機械工学を総合的に扱うことを目的とする学問分野。アメリカの数学者ノーバート・ウィーナーの『サイバネティックス 動物と機械における制御と通信』(1948)において提唱された。その序章で、ウィーナーはこの言葉をギリシャ語の「舵手(kybernētēs)」から着想したと述べているが、彼によればその理由は、船の操舵機こそがサイバネティックスの主題である「フィードバック機構」の最も古い形式だからであるという。ウィーナーのサイバネティックス理論は基本的に数学に基づくものだが、B・ラッセルのもとで哲学を学んだ彼の理論および思想は自然科学の領域には到底収まらない。実際ウィーナー自身の考えによれば、自然科学の諸分野のみならず、言語やコミュニケーションを研究対象とする人文科学や社会科学もまたサイバネティックスの下位部門に含まれる。ウィーナーの著作自体は多くの数式を含んだ難解なものだが、この新たな学問分野が(少なからぬ曲解を通じて)後世に与えた影響は極めて大きい。大衆文化におけるその受容は、1980年代の合衆国における一冊のSF小説、すなわちW・ギブスンの『ニューロマンサー』(1984)をきっかけに始まった。ギブスンは、脳と機械が電子的に統合されたネットワークを自身の小説に登場させ、それを「サイバースペース(電脳空間)」と名づけた。「サイバネティックス」と「スペース(空間)」の合成語であるこの概念が登場して以来、『ニューロマンサー』を含むSFジャンルとしての「サイバーパンク」や、拡張身体としての「サイボーグ」といった言葉が生まれ、それに伴い「サイバネティックス」概念も広く人口に膾炙した。

著者: 星野太

参考文献

  • 『サイバネティックス 動物と機械における制御と通信』, N・ウィーナー(池原止戈夫ほか訳), 岩波文庫, 2011
  • 『サイバネティックスはいかにして生まれたか』(新装版), ノーバート・ウィーナー(鎮目恭夫訳), みすず書房, 2002
  • 『ニューロマンサー』, ウィリアム・ギブスン(黒丸尚訳), ハヤカワ文庫, 1986

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