2019年08月01日号
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プリミティヴィズム

Primitivism

プリミティヴ(=原始的、野性的、未発達)なものを称揚する態度および思想のこと。プリミティヴという言葉は、西洋の文化においてはしばしば「未開」社会を意味するものとして否定的に用いられてきた。すなわちそれは、西洋という「進歩した」文明の対極にある「野蛮な」社会を意味する否定的なニュアンスを伴った言葉だったのである。しかし帝国主義の時代に各地で行なわれた非西洋圏の文物の収奪は、皮肉にも未開社会の芸術作品の魅力を西洋に伝えることになった。かくして、西洋美術におけるプリミティヴィズムは、大都市での博覧会や見本市が頻繁に行なわれた19世紀に頂点を極める。その結果、19世紀後半から20世紀前半にかけて、ヴィンセント・ファン・ゴッホやパブロ・ピカソのような「近代的な」作家がアフリカやアメリカ大陸の「原始的な」絵画・彫刻に影響を受けるというケースが頻繁に生じることになった。さらに20世紀以降においても、西洋的な価値観を内面化した国や地域のいたるところにプリミティヴィズムは存在している。1984年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「20世紀美術におけるプリミティヴィズム」展は、近代芸術と部族的(≒プリミティヴ)芸術の近接性を主張するものであったが、その展示方法などがかえってその差別性を露呈させているとして、しばしば人類学者たちから批判の対象とされてきた。要するにプリミティヴィズムの最大の問題とは、その評価が積極的なものであれ否定的なものであれ、西洋の規範から外れたものに「プリミティヴ」という価値を付与してしまうその根本的な態度にある。なぜならそれは、みずからを「進歩した」側に位置づける社会・人間が、「遅れた」社会・人間に付与する一方的な表象だからである。したがって今日「プリミティヴィズム」という言葉を用いる際には、その背後に多かれ少なかれ歪んだ他者表象が含まれるということに留意しておく必要がある。

著者: 星野太

参考文献

  • 『〈プリミティヴィスム〉と〈プリミティヴィズム〉 文化の境界をめぐるダイナミズム』, 大久保恭子, 三元社, 2009
  • 『美術史を語る言葉』, 「プリミティヴ」, マーク・アントリフ、パトリシア・レイトン(米村典子訳), ブリュッケ, 2002
  • The Return of the Real: The Avant-garde at the End of the Century, Hal Foster, The MIT Press, 1996
  • 『20世紀美術におけるプリミティヴィズム 「部族的」なるものと「モダン」なるものとの親縁性』, ウィリアム・ルービン編, 淡交社, 1995

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