2019年08月01日号
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Portrait

社会的かつ個人的な特徴を表わす肖像写真。1839年に発明されたダゲレオタイプは主に肖像写真として普及し、商業的な成功を収めたが、それは安価に手に入る自分の似像を求めていた人々の要求に応えたからであった。ミニアチュールの肖像画は高価だったし、描くのに時間がかかったから、都市のブルジョワジーたちはダゲレオタイプを求めて写真館に詰めかけた。写真術の発明がそれまで一部の階級にしか持つことのできなかった肖像の民主化に貢献したと言える。また、死者(多くは子供たち)の肖像を留めるために撮影された「没後写真」や追悼用の遺影も早くから制作されていた。パリではナダールの写真館が一種のサロンと化し、ここでの写真撮影は有名人のステータスとなったが、なかには他人の肖像写真を自分のものと間違えて持ち帰ったり、自分の写真を見て怒りだす客もいたという。1854年、フランスのアンドレ=アドルフ=ウジェーヌ・ディスレリが一枚のコロディオン湿板を分割して撮影する「カルト・ド・ヴィジット(名刺判写真)」の特許を取得。複数のレンズが付いたカメラによって、ポーズを変えた肖像写真をより安価に大量生産できるようになった。日本では「写真に写ると寿命が縮む」などという迷信が当初あったものの、62年に長崎の上野彦馬や横浜の下岡蓮杖が開港地に開業した肖像写真館を皮切りに、全国各地に広がっていった。

著者: 小原真史

参考文献

  • 『肖像写真 時代のまなざし』, 多木浩二, 岩波新書, 2007
  • 『ナダール 私は写真家である』, ナダール(大野多加志、橋本克己訳), 筑摩書房, 1990
  • 『時の宙づり 生・写真・死』, ジェフリー・バッチェンほか(甲斐義明訳), IZU PHOTO/NOHARA, 2010

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