2019年08月01日号
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リプレゼンテーション

Representation

「表象」あるいは「再現」「上演」「代理」など。もっとも広い意味においては、人間が経験を通じて生み出す観念や図像を含めたイメージ全般のこと。この言葉そのものは、ギリシャ語の「phantasia」およびラテン語の「repraesentatio」に由来する古い言葉であり、プラトン以来の哲学においてもっとも多くの議論が重ねられてきた概念のひとつである。その定義は論者によってさまざまだが、アリストテレスが人間の本質を「表象能力」に定めて以来、「表象」が主体としての人間にとって不可欠な能力であるという点はおおむね共有されている。この種の議論における「表象」とはいわば人間が日常的に抱く心理的なイメージのことであり、そこでは人間が世界を経験するときの認識のあり方が問われていると言える。他方、「表象」とは人間の心理的なイメージばかりでなく、私たちの身の周りに存在する具体的なイメージを意味する言葉でもある。例えば絵画や彫刻にとどまらず、ある言語記号や指示記号のように、他の何かを直接/間接に指し示しうるものはすべてこの「表象」に含まれる。特に20世紀後半になると、ミシェル・フーコーやエドワード・サイードらの議論を契機として、「表象」は実際の政治や文化の背後にある権力関係を分析するための操作概念として広く用いられるようになる。以上のような多義性を踏まえ、英語の「representation」をはじめとする同系列の言葉は、現在の日本語では文脈によって訳し分けられることが一般的である。いくつかの例を挙げれば、造形芸術の文脈ではある事物の「再現」や「描写」、演劇の文脈では作品の「上演」や「演出」、政治の文脈では「代表(制)」となる。これ以外にも、場合によって「代理」「表現」「再呈示」などさまざまな訳語が充てられるが、本項の最初に挙げた「表象」がその他の意味を包含しつつ使用されることが一般的である。

著者: 星野太

参考文献

  • 『魂について』, アリストテレス(中畑正志訳), 京都大学学術出版会, 2001
  • 『純粋理性批判』, イマヌエル・カント(熊野純彦訳), 作品社, 2012
  • 『ハイデッガー選集13 世界像の時代』, マルティン・ハイデッガー(桑木務訳), 理想社, 1962
  • 『事典 哲学の木』, 「表象」, 小林康夫, 講談社, 2002
  • 『美術史を語る言葉』, 「表象」, デイヴィッド・サマーズ(田中正之訳), ブリュッケ, 2002

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