2019年10月15日号
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ヴェトナム戦争

Vietnam War

ヴェトナム戦争は、1960年頃から75年まで続いた、北ヴェトナム・南ヴェトナム解放民族戦線と、アメリカ・南ヴェトナム政府との戦争である。芸術史においては、カウンター・カルチャーの登場を促し、近代社会への内省を芸術表現にもたらしたという点で重要な出来事であった。ヴェトナム戦争の長期化とそれに伴うアメリカ社会の疲弊は、アメリカ西海岸の若者を中心にカウンター・カルチャーの機運を高め、その思想は美術、映画、大衆芸能などのさまざまな場面で反戦運動や平和主義というかたちで具現化された。近年も、中国系アメリカ人の美術家/建築家であるマヤ・リンが設計したワシントンDCの《ヴェトナム戦争戦没者慰霊碑(Vietnam Veterans Memorial)》は、花崗岩の巨大な壁に戦没兵士の名前を刻むというものであり、伝統的な慰霊碑とは大きく異なるデザインだったため、美術の枠を超えて大きな論議を呼んだ。
アメリカ社会では主流文化への反抗の象徴として利用されてきたヴェトナム戦争であるが、ヴェトナム国内やアメリカのヴェトナム系コミュニティでは、よりナショナリスティックな反応が見られた。ヴェトナム人の芸術家たちは反米色を鮮明に表わした社会主義リアリズムの作品を発表し、その傾向はヴェトナム戦争後に共産主義政権が樹立すると加速した。しかし、86年の「ドイ・モイ(刷新政策)」以降、より若い世代の芸術家によって、トラウマティックな記憶としての「ヴェトナム戦争」が現代美術の主要なテーマとして再考されるようになった。例えば、ディン・Q・リーは映像作品『The Farmers and the Helicopters』(2006)のなかで、戦争当事者のインタヴューと商業映像を混在させることで、西洋主導で語られてきたヴェトナム戦争の言説を転覆することを試みた。このように、ヴェトナム戦争はカウンター・カルチャーの時代から現代に至るまで、社会の矛盾を露呈させる舞台としてさまざまなかたちで表現/再生産されている。

著者: 荒木慎也

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