2019年12月01日号
次回12月16日更新予定

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即興

Improvisation

すでに完成された、あるいは完全に記譜された楽曲を楽譜どおりに演奏するのではなく、演奏者自らが音楽創造とその現前化を同時的に行なう演奏形態。即興は音楽演奏自体の非記録性、瞬間性と合致した創造行為で、楽譜や録音によって記録、保存された音楽とはまったく違うベクトルを向いた音楽のあり方を呈している。旋法やリズムなどの音楽的イディオムを端緒とするイディオマティックな即興と、特定の音楽的イディオムを念頭に置かずに自由に行なわれる非イディオマティックな即興とに大別される。グレゴリオ聖歌、オルガン音楽、協奏曲のカデンツァ等、作曲家が演奏家を兼ねていた18世紀頃まではイディオマティックな即興が主流で、即興演奏は音楽的な創造性を即座に具現させる場として重要視された。インド古典音楽等の民族音楽における即興もイディオマティックな即興に属する。だが、記譜法が発達し、書き記された音楽作品がある種の権威を獲得すると即興は影を潜めた。20世紀に入り、図形楽譜や不確定性の音楽によって記譜の概念が拡張するにつれ即興が力を取り戻す。それはまた「開かれた作品」のように、作者および作品概念の転換を意味する。作品が作者から解放され、演奏者に選択の余地と自由が与えられた。即興を積極的に導入したE・ブラウンは、図形楽譜によって演奏者の自発性と創造性を喚起し、形式や規範を解体する非イディオマティックな即興を創出した。1960年代には即興は音楽外の要素と結びつく側面を見せた。自由即興演奏集団AMMやスクラッチ・オーケストラに深く関わったC・カーデューにとって、集団即興は社会的なイデオロギーを体現する場だった。非イディオマティックな即興を先鋭化させたフリー・ジャズやフリー・ミュージックは今や一ジャンルとして定着した。コンピュータ音楽の分野ではリアルタイムでの音楽生成システムが開発されるなど、即興のあり方自体も変化している。

著者: 高橋智子

参考文献

  • 『インプロヴィゼーション 即興演奏の彼方へ』, デレク・ベイリー(竹田賢一ほか訳), 工作舎, 1980
  • 『実験音楽 ケージとその後』, マイケル・ナイマン(椎名亮輔訳), 水声社, 1992
  • 『仁王立倶楽部』1986年1月号, 「スクラッチ&レヴォリュショナリー Cornelious Cardew」, 竹田賢一

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