2019年06月15日号
次回7月1日更新予定

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実用音楽

Gebrauchsmusik(独), Utility Music(英)

1920年代初頭のドイツを中心に起こった音楽思潮のひとつで、その後、世界各地に広まった。「芸術のための芸術」といったエリート的な音楽のあり方を批判し、一般大衆のための集団的な音楽活動とその作品全般を指す。労働運動や音楽教育の場にも適用された。客観的な事物としての「もの(Ding)」と実践的な「道具(Zeug)」とを区別するハイデガーの考えを踏襲したH・ベッセラーは、もっぱら美的な創造や享受の対象として自己充足した音楽を「自律的な音楽」とする一方で、実際に人々の生活に関わり合いを持ち、さまざまな背景のなかでその役割を果たす音楽を「実用音楽」とした。13-14世紀の教会で歌われた多声音楽のひとつであるモテットや、16世紀頃から普及したドイツの舞踊組曲も実用音楽と見なされる。これらは美的享受よりも聴衆の参加を旨とし、礼拝や社交などの特定の場面や機能のために作られた音楽だ。1920年代に入ると実用音楽が社会的、政治的な色を強め、批判的に語られるようになった。ちょうどその頃、第一次世界大戦後の厭世観やニヒリズムを投影し、反抽象表現を謳った新即物主義の動きがドイツの美術を中心に興った。この機運は音楽にも飛び火し、比較的容易に演奏できる簡素な旋律とわかりやすい和声の合唱や合奏音楽が、P・ヒンデミット、K・ワイルらによって書かれた。《室内音楽 opp.48-50》(1929-30)など、ヒンデミットの30年代の楽曲の大半は実用音楽である。後に、アドルノはヒンデミット等の実用音楽を、管理された社会における安易な大衆迎合として厳しく批判し、音楽と社会との相互関係についての論を展開した。自律的な音楽あるいは芸術音楽対実用音楽という図式を、音楽的な素材とそこに内在する論理から読み解こうとしたアドルノの議論は、今日の音楽社会学の基礎を作ったとも言える。

著者: 高橋智子

参考文献

  • 『音楽社会学序説』, テオドール・W・アドルノ(高辻知義、渡辺健訳), 平凡社, 1999
  • 『作曲家の世界』, パウル・ヒンデミット(佐藤浩訳), 音楽之友社, 1955

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