2020年04月01日号
次回4月15日更新予定

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新国立競技場問題

The Issue of the New National Stadium

2012年11月、新国立競技場基本構想国際デザインコンクールにてザハ・ハディド・アーキテクツ(ZHA)の案が最優秀賞に選ばれたことを発端とする問題。コンペは安藤忠雄を審査委員長に据え、ハードルの高い応募資格をクリアした国内外の建築設計事務所が参加した。ZHA案は2本のキールアーチと開閉式の透明膜からなる屋根を特徴とし、流線型の形態から「SF的」と形容する声もあった。コンクール後、ZHAによるデザイン監修のもと、日建設計・梓設計・日本設計・アラップ設計共同体(設計JV)が設計を手がける体制が組まれた。しかし13年8月、建築家の槇文彦がデザインコンクールの結果を批判する論文を『JIA MAGAZINE』で発表。ZHA案の巨大なスケールが敷地である神宮外苑の景観を損ねることやコスト面での難点を指摘した。その1カ月後に東京での五輪開催が決定したこともあり、槇の問題提起は耳目を集め、市民運動にも発展。設計JVは案を実現可能な規模に折り合いをつけながら計画を進めたが、想定される工事費が当初よりも大幅に膨らみ、反対の声が高まった。そして衆議院本会議での安保法制強行採決の翌日にあたる15年7月17日、安倍晋三首相が新国立競技場の整備計画の白紙撤回を表明。ZHA側は実現可能性を訴えたが、政府はコンペの再実施に踏み切った。再コンペでは、施工会社と組むデザインビルド形式のもと、隈研吾(+大成建設、梓設計)と伊東豊雄(+日本設計、竹中工務店、清水建設、大林組)による2案のみが集まった。結果、業務の実施方針や工期短縮などの観点で評価が高かった前者が選定され、竣工に向けて工事が進められた。ちなみに隈、伊東による両案は、ZHA案と異なり、木材をふんだんに用いた提案となっている。これは再コンペの要綱に木材利用を奨める旨が明記されたことや、「日本らしさに配慮した計画」が審査の評価項目となったことが関係している。新旧の各種メディアを通じてさまざまな議論が紛糾したこの問題は、現代において国家レベルの建築を実現することの難しさを浮き彫りとするものとなった。今後この問題の史的な位置づけをめぐり、多角的かつ丁寧な検証が求められるだろう。

著者: 菊地尊也

参考文献

  • 『検証 平成建築史』, , 内藤廣、日経アーキテクチュア, 日経BP, 2019
  • 『オリンピックと万博』, , 暮沢剛巳, 筑摩書房, 2018
  • 『インポッシブル・アーキテクチャー』, , 埼玉県立近代美術館ほか編, 平凡社, 2019
  • 『JIA MAGAZINE』Vol.295 2013年8月号, 「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」, 槇文彦, 日本建築家協会, 2013
  • 『建築討論』web201801 特集=「造」と「材」, 「日本らしさをめぐる葛藤:新国立競技場における木造と木材」, 磯達雄, 日本建築学会建築討論委員会, 2018

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