2019年06月15日号
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正面性

Frontality

人体表現において、対象が観る者に対し正面を向いているという特徴を表わす概念。デンマークの学者、ユリウス・ランゲが1899年の著書『造形芸術における人間の形態』において、それ以前からも使用されてきたこの語に明瞭な定義を与えた。ランゲは紀元前500年以前のエジプト美術やギリシャ美術の彫像について、それらが頭の頂上から鼻、背柱、胸骨、臍、陰部を貫く正中線を持つこと、この正中線を軸に身体が左右相称的に展開すること、またこのときの身体の両側面がいかなる捻転も屈折も受けずに不変のまま留まることを考察し、これを「正面性の法則(Gesetzes der Frontalität)」と名付けた。正面性による姿態は運動の自然な表出を許さず、厳格な幾何学的規則に制限される。ランゲはこうした単純な規則への服従は、原始人類の生活における倫理や慣習と相応するものと説明した。ただし、ランゲの説は人間の横臥像や動物像といった逸脱例を除外しており、この法則についてはさまざまな反論や解釈が提示されている。例えば古典考古学者のE・レーヴィは、古代美術の彫像が記憶像の概念的再現に基づくとし、こうした原初的な創造活動が短縮法や背面・側面観の獲得につれ次第に発展していく過程を進化論的見地から論じた。また、古代ローマのレリーフやビザンティン美術、イコン画などに見られるように、正面性が権威や威厳の表現と結びつく場合もある。なお、ランゲの論文の抄訳は吉川逸治による翻訳で『ロマネスク美術を索めて』(1979)に収録されている。

著者: 中島水緒

参考文献

  • 『ロマネスク美術を索めて』, , 吉川逸治, 美術出版社, 1979
  • 『初期ギリシア芸術における自然再現』, , エマヌエル・レーヴィ(細井雄介訳), 中央公論美術出版, 2007

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